冷たい親友がツンデレな彼女になるまで

れいおん

第1話


「おはよう世界」

目をこすりながらひとり呟く。

私はサイトで小説を書きこんでいた。

ちょうど0時を回ったところだ。


恋愛小説でも書こうかと思っていたのに、タイピングする手がさっきからずっと動かない。恋愛小説は私が1番好きな小説のジャンルだ。読んでいてエモいなと思ったり、少し甘酸っぱかったり、切なかったり、どれも多種多様だ。


好きだからこそ書けないのかもしれない。

いや、でもそれだけが理由ではない。


いつも実体験をもとにしていろんな小説を書いてきた身である。


だから、どうしても恋愛小説が書けない。


「恋愛小説?恋愛なんて、したことないのに書けるわけないじゃん。」

どうしよう、どうしても書きたいのに。

私が小説を書き始めた理由も、恋愛小説を書きたいと思ったからなのに。


***

「、、ということがありまして」


「んー、確かに経験がないと想像だけで書くのは難しいかもね」


私の悩みを、カフェラテを飲みながら聞いてくれているのは、

髪は結んでも肩より少し下まである、少し気が強めのボーイッシュな女の子、

私の中学からの友達、

後藤 玲奈だ。


「だからやっぱり恋愛を始めるしかないと思うのよね」




「、、、、、えっ?」

そんな理由で?とか、あんたが?とでも言いたげな表情をしている。

いつも三角で綺麗で鋭い目なのに今は丸く見開かれていて、これではまるで別人のようだ。

「そうよ、もう高校生だし?そろそろ彼氏の1人や2人ぐらい作ってもいいかなと」


「、、、、、」

今度はどういう表情なのか、少し唇が引きつっているようにも見える。


「でね、どの人がいいかなって、、おすすめを教えてもらおうかなって」


彼女はその言葉を聞いた瞬間ついていたほおずえをずるっと顔から滑らせた。

ずこっという効果音がついてもおかしくない。


「あんたのことだからそういうことだと思ったわ、、たく、、冗談もほどほどにしてよね、私は罷らせてもらうわ」


「えぇ、、そんな冷たいこと言わずにさぁ」


「私のあだ名れいおんっていうの」

「あぁ、、そっか、、そういうことかぁ、、」

私はてっきり名前が玲奈だからそう呼ばれているのだと思っていたが、、

態度が冷たいから、冷温、れいおん、と呼ばれているのか。


これでも1番仲がいいはずのになぜそんなことも私は知らないのだろう。

私はものを知らなさすぎる。

小説家にとっては致命的だな。


***

びっくりした。

まさか彼女が恋愛に興味を持つなんて。

安心しきっていた、彼女は彼氏なんて作らず、ずっと私と一緒にいてくれると。



怖い。

彼女に彼氏ができるところなんて想像したくない。

デートに行ってクレープを食べながらおいしいね~なんて言ってにこにこ笑ってるところで、彼氏にクリームついてるよって言われて急に可愛く真っ赤に照れるとことか

手を組んだり、ハグしたりキスしたり、彼氏といちゃいちゃしてるとことか、、っ

、、ほんとうに見たくない。


怖いよ。あの子に彼氏ができたら私、、どうなるんだろう。




私が男子だったらなぁ、脈はあったかもしれないのに。

対象としてすら認識されていない。

頑張ってボーイッシュになった、頑張って話しかけた、頑張って1番の親友の座にのぼりつめた。

なのに、、どうしたらいいかなぁ、考え始めたところで急にピンときた。



***

次の日も彼女と同じカフェで話していた。執筆中のミステリー小説のこととか最近、近くにできたショッピングモールの話をしたりとか何気ないことを話している間に昨日の話の続きになった。



「え、恋愛シミュレーション?」


「そうよ、あんた恋人いたことないんでしょ?人を好きになったことないんでしょ?だったらもし恋人ができたとしても具体的に何したらいいかわからなくて困るんじゃない?」


うっ正論だ、、早口だから圧を少し感じる。

私は映画やドラマや私の好きな恋愛小説に出てくるいわゆる「ロマンチックで現実離れした恋愛」にはそこそこ詳しいが、実際の高校生がする「現実的な恋愛」に関してはさっぱりわからない。


「うん、全く知らない、、」

眉間にしわを寄せて高い鼻の上のあたりを右手の人差し指で押さえながら

「あきれたわ、あんた高校生としてどうなのよそれ、、」

とトーンを低くしてうなだれる。


「だってしたことないし、、」


恋愛したことない人ってどこで現実の恋愛について学んでるんだろうか、、

いつも不思議に思う。友達のコイバナから、とかかな?


「てかそういう玲奈は?経験あるの?」


三角の目がまた丸く見開かれた。思ってもないことを聞かれたような反応だ。

少しまずかったかもしれない。


「、、は?」

また鋭く戻った目がさっきまでの鋭さよりさらに鋭さを増していて正直怖い。

地雷だったのかもしれない。


「いや、玲奈のことだからそんなことないと思うけどさ、もし玲奈に経験がなかったら意味ないじゃん?初心者と初心者の恋愛しゅみれーしょんってさ」


玲奈は黙ってうつむいた。少し震えている。

「、、わ」

何か言っているようだが小さくてよく聞こえない。

「ん?」

今度はさやかに聞こえた。




「私を誰だと思っているの」




清らかで美しく凛とした声で、腕を組み右斜め後ろに首をのけぞりながら

どや顔でただ一言。


「だよね~やっぱり経験あるよね~!」

すごいな、さすが玲奈、モテモテだ。

私なんて告白されたことない。たぶん。


幼稚園の時とかにされていたとしても覚えてないからたぶんとしか言えないけど。

いや、ない、と言い切りたくないだけなんだけど。


「あぁ、それと若葉、」

「、、?何?」

「恋愛しゅみれーしょんじゃなくて恋愛シミュレーションよ」


**

あぁ今日も可愛い。天使みたい。私が月なら若葉は太陽。

暗くてかわいげのない私とは正反対。小動物のようでもある。


そんなことを考えつつじっと彼女の顔を見ながら幸せをかみしめていたが、

後ろにあった時計が16時をまわっていたためそんなことをしている場合ではないと気づいて、家で何度も真顔で言えるように練習したセリフを早口でしゃべり提案した。


我ながら、、いい提案だとは思う。恋愛シミュレーション。

若葉の悩みを解決してあげようという優しい友達のようなノリでうまく距離を縮められる。いい感じいい感じと思っていた矢先


「てかそういう玲奈は?経験あるの?」


太陽のような若葉からつららのような一言。


ダメージがすごい。

告白は、、されたりもする。

いわゆるクールビューティー系とか清楚系とかボーイッシュ系とか言われてなんやかんやで告白はされる。

でも私はすべてふってる。

だから恋愛経験は若葉と同じくゼロ。


だって、、私には若葉がいるから、、


ない、といっそカミングアウトしようかとした矢先、若葉が次に発した言葉の途中の

「、、経験がなかったら意味ないじゃん?、、」

がとどめをさす。


嘘はつきたくない、けど、、ない、といったらこの計画がおじゃんになってしまう。


苦しかった、がまたピンときた。

あ、そうか、ないとかあるとか言わなくていいじゃん。


「私を誰だと思っているの」


我ながら完璧な回答だった。

**

恋愛シミュレーションを間違えたことをなかったことにするかのように、顔を少し赤くしながらそっぽを向いて若葉がはっきりと言った。


「じゃあ付き合おっか」


「、、!わかったわ」


若葉!言い方が紛らわしいよ。

一瞬ドキッとなってしまった。顔が赤いのもそっぽを向いているのも恋愛シミュレーションを言い間違えたのが恥ずかしかったからだと頭では分かっているのに。

若葉の態度もあいまって動悸が激しい。


こうして私は嘘をつかずしてかっこいい感じで若葉と、、恋愛シミュレーション相手として付き合えることになった。

心の中では最高!!!と叫んでいるのだがばれたらおしまいなので頑張って真顔を保とうとした。今私どんな顔してるかな、不自然なしかめ面な気がする。恥ずかしい。


ふと


玉の緒よ 

絶えなば絶えね 

ながらえば忍ぶることの弱りもぞする


が頭の中に流れてきた。


そう、この歌と同じく私の恋は禁断の恋なのだ。

ばれたら友達ですらいられなくなるかもしれない、でもうまくいけば、、

彼女にできるかもしれない。



チャレンジだ。

絶対惚れさせる。







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