萩市立地球防衛軍【番外編】……猫と掘りごたつ

暗黒星雲

第1話 雪中の猫獣人

 ここは山口県萩市。

 今日は粉雪が舞い家々の屋根も雪で覆われている。路面は白く凍結し、道行く車はひたすらゆっくり走る。当地のドライバーは雪道に慣れていないからだ。


 そんな寒空の下、二人の男が背を丸めながら歩いていた。一人は小柄でまだ中学生ていど。一人は長身で体格の良い男だった。


「寒いぞ。萩は温暖な地域ではなかったのか?」

「はい。その通りです。しかし、今は二月。真冬でございますれば、年に数度、このような天候になる事もございます」

「言い訳するんじゃない。寒すぎる。何とかしろ」

「そう申されましても……太子がトイレに行きたいと言われたのでバスを途中下車いたしました。目的地まではあと数キロですが、交通手段は徒歩しかありません」

「次のバスに乗ればいいだろう」

「太子、次は二時間後でございます。普通に歩けば目的地に到着する時間ですぞ」

「タクシーを呼べ。もう足が氷つきそうだ」

「太子。本日は悪天候のため、タクシーは二時間待ちとなっております」

「うううう。歩くしかないのか?」

「はい、太子」

「ヘーックション」


 小柄な男が盛大なくしゃみをした。その瞬間、頭の上にぴょこんと二つの猫耳が飛び出した。


「寒い。何とかしろ」

「何ともできませぬな」

「そこのうどん屋で熱々のきつねうどんを食おう。どうだ。いいアイディアだろ?」

「太子。寄り道をしては目的地へ到着しませんぞ」

「ぐぬぬ」

「さあ太子。急ぎましょう」

「わかった」


 おうし座のヒアデス星団。地球より150光年離れているその星団内にある惑星国家キラリア。


 そこは猫獣人の統べる国。かつてはキラリア、ダブラ、ソルという三つの国家が覇を競い争っていた。しかし現在はキラリアが他の二国を吸収し統一国家を形成している。


 太子と呼ばれた小柄な青年はダブラの正当な後継者であったが、今は国そのものが無くなり一領主としての地位しかない。


 対して、キラリア王位継承者のハウラ姫は現在地球に留学中である。

 

「アキュラよ。僕は絶対ハウラ姫を手に入れて見せる。そしてキラリア王国を乗っ取り、我がダブラ王国を復活させるのだ」

「その意気ですぞ。ムラート太子」

「だがしかし、僕の脚は凍り付きそうなほど冷たくなってしまった。もう歩けない」

「そんな弱気を吐かれていては、国の再興など夢のまた夢ですぞ」

「わかっている。わかってはいるが、もう歩けんのだ」


 ムラート太子の悲痛な叫びに胸を痛める執事アキュラなのだが、彼は自力で歩くこと以外に方法がないと承知していた。


 そこへ、大型ディーゼルエンジンの黒煙を吹き上げながら、一両の戦車が接近してきた。それは防衛軍の車両……三式中戦車だった。

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