幸せじゃない沙羅ちゃん

沙羅ちゃんは、幸せじゃないのか僕を見ても全然笑わなくなった。

僕のご飯や身の回りの世話は、誠一がやってくれている。


僕が居ても沙羅ちゃんは、幸せじゃないんだ。

掃除をする為に、沙羅ちゃんが開け放した窓。

いつもは、そんな所から出たりしないけど……。

気づけば僕は、外に飛び出していた。

さよなら、沙羅ちゃん。

走ってやってきたのは、ここだった。


「メメ君!家出してきたのか?」


僕は、院長先生の言葉に頷くように首を振った。


「とにかく、中にお入り」


院長先生は、病院の中に入れてくれる。

テレパシーで伝わるわけないのわかってるけど、院長先生を見つめた。


「飼い主さんが幸せじゃないんだろ?声を失くして救ったのに……。喜んでくれなかったんだろう?」


何でわかるの?

まるで、エスパーみたいだ。


「私もそうだったから、よくわかるよ。ララが鳴けなくなって、毎日悲しくて悲しくて仕方なかった。だって、ララは小さな時から鳴いて私をよく呼んでくれたから」


確かに、僕もそうだ。

鳴いて、鳴いて、鳴いて。

沙羅ちゃんをよく呼んだ。

行かないでとか一緒にいてとかたくさん鳴いて知らせた。

その度に、沙羅ちゃんは僕を撫でてくれた。


声が失くなった僕は、もういらないんだ。

沙羅ちゃんを幸せに出来ないから。

だって、沙羅ちゃんは今幸せじゃないから。


「メメ君。もう戻らないって目をしてる。本当にそれでいいのかい?」


いいんだよ。院長先生。

だって、沙羅ちゃんは僕がいたら幸せじゃないんだから。


「メメ君がいなかったら、寂しいと思うよ。鳴かない事よりも、もっと」


院長先生は、僕の背中を撫でてくれる。

大丈夫だよ。

沙羅ちゃんには、誠一がいるから。

二人になった方が沙羅ちゃんは、幸せになれるから。



「今日一日は、ここに泊まって行きなさい。その代わり、明日は飼い主さんに連絡する。いいかい?」


院長先生の言葉に僕は頷く。

沙羅ちゃんは、心配なんかしてないよ。

鳴けない僕なんかいらないんだから。


だから、連絡したって普通に僕を引き取りに来るだけだ。

そして、家に帰ったら。

僕は、誠一にお世話されて。

沙羅ちゃんは、悲しい顔をするんだ。

僕が死ぬまで、ずっとそれが続くだけ……。


院長先生は、僕にキャットフードを出してくれた。

誠一が言ってるみたいに病院のご飯は何だか味気ない。

そっか。

いつもは、誠一がトッピングにお肉だったりお魚を入れてくれてるからだ。


誠一は、グルメだから。

僕のご飯も美味しくしてくれた。

僕は、沙羅ちゃんも誠一も大好きだよ。

でも、沙羅ちゃんは僕がいない方がいいんだ。

その方が幸せになれるんだ。

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