第25話 襲撃前の風景
「ひぇー怖いなー」
心霊スポットとして有名な廃墟ビルの中に、棒読みをしながら進んでいく少年がいた。実際の所、彼は幽霊何ぞ怖くもなんとも無く、むしろ居たらいたで少し笑う位だろう。それぐらい、彼の精神は落ち着いていた。
彼がそこにいる理由として、陰陽師襲撃の集合場所がここだったというのが挙げられる。しかし、これはあえて遠回りをすることでその廃墟特有の雰囲気を味わおうとしたのだが、どうやらその通りにはならず寧ろしょぼいなという思いが強くなるばかりであった。やっと目的の場所につくと少年は頬を歪ませる。
「………何だコイツ……」
「気にするな…………ただのヤク中だ……」
ヘラヘラ笑っている少年というその異色さから少し距離が空いてしまい、少し困りながら頭をかく。内心もう少し大人びた服装にすればよかったと愚痴りながら、周りを見渡す。
(んー………やっぱこれくらいか……20人前後位……)
金髪に染めてロクに鍛えてなさそうな筋肉を持った男が堂々と座っていたり、集団として固まった形でいたりと各々が自由な形で集まっている。
(あ……いた……)
そこで目当ての人物を見つける。メガネの男性と褐色肌のパーカーを着た女性の二人組である。早速少年はコンタクトを取りに行く。
「いやぁ、今回カモな依頼ですよね」
「…………なんだお前……」
「おい、そうだな……今回の依頼は簡単そうに見えるな……」
怪訝な顔をしてぶっきらぼうに突き放した男性を制し、パーカーの女性は笑顔で答える。反応はいつもどおりだと内心安心する。たまに
「ですがね? 私思うんです。こう言うのは協力している人が多ければ多いほど、成功確率って高くなると思うのんですよね……」
「それは俺達になんの関係がある?」
「………それはそうだが………そんな事言うのはやめろ………」
やはり彼の方は難色を示すが、それはいつもどおりのことだ。
「そうですね……今の状態では私がいるのはどうしても不利になるんでしたら、私の成功報酬の半分、明け渡しても良いのですか……」
「さっきの無礼を詫びる、本当に済まなかった。……よろしく頼む」
「……私の方も頼む」
掌をクルリと返した彼を見て、良かったと胸をなでおろす。前にも彼が言っていた通り、この2人の例に漏れないことだが、グリガムというのは基本的に金欠だ。というのも、年齢がとんでもなく高いことにより、生活には溶け込めてもたかが百年程度で硬貨が目まぐるしく変わる。よってせっかく集めたものが今は使えませんなんてザルなのだ。その上、グリガムは何かと趣味が多いのが仇となり、散財しまくってしまう。それにより、基本的に金を欲している。
「いや、いいんですよ?寧ろ、これくらい疑われたほうが関係が厚くなりませんしね?これからもよろしくお願いしますね? あ、忘れてました。私、
「ああ!! 俺はナンダだ、よろしく」
「私はバンダだ……」
少年、佐藤は細い目をより一層細め、固い握手を交わす。この2人の初コンタクトは毎回そうだが緊張する。下手してコンタクトに失敗したら、戦いの合間に気付けば後ろから刺されるという体験もしたことがあるのだから。
そうして心の中から安心したその時であった。複数の足音が扉から入ってくる。その足音から子供や大人まで、多く来ているのがわかる。その足音が分かると、周りの雰囲気が一気に変わる。
「………やっぱり来ると思った」
佐藤はナンダとバンダを見たまま呟く。現段階で全員化け物の集団。『ヨルムンガンド・テュポーン』神話の化け物を合わせた厨二みたいな名前だが、名に恥じないくらい全員のレベルの水準が高い。しかし、大体深郷田に脳を焼かれているため、その話になるとクソ長いスピーチを聞くことになる。
「…………いないぞ『カイ』……」
「それはそうだろう………ここの中に内通者がいる可能性だってあるんだから」
ナルシスト風の男が飄々としたピアスの少年に話しかける。恐らく深郷田の事だろう。この集団、本当にその事しか話していない。
「あったら何する?……抱きつく?」
「それは無くないか?………」
「………抱きつく………いいな!!……」
「それで目覚めるなよ『タウ』………」
『プサイ』と『タウ』の制御に徹底している『ファイ』は困った様にベレー帽を被り直す。そのザワザワとした雰囲気にガラン!!と物が倒れる音がした。見れば意地の悪い笑みを浮かべた男の下にドラム缶が横になっている………。これは喧嘩になるなと頭の中で佐藤は察する。
「………お前らか………深郷田直属の部下………てっきり筋骨隆々の怪物や老害が来ると思ったが………こんなヒョロヒョロのガキ共とはな!!! 負けた理由もわかるぜ、ガッハハハハ!!」
馬鹿だなぁ叶うわけ無いじゃんと口を出して言いそうになったが、すんでの所でその言葉を飲み込む。決して叶わないわけではない。ただ単に見てて楽しいのだ。
「………戦うべきじゃないだろうな……霊力の纒い方が断然違う……」
バンダは少し心配そうに眺める。相手は当然ドラム缶の方だ。
「そ・ん・な・か・で、お前………ファイって言ったか?……まずお前からだ。俺様の力を見せてやる」
「え?……いや、それは襲撃して倒した人数にしようぜ?……こんな所で無闇には………」
「行くぞぉ!!」
ファイの静止の声を振り切り男は拳を突き出す。ファイはその拳を半身で捻って躱す。
「っぶねぇな……」
「おいファイ……そいつ殺れ!!」
「構わないぞ?」
「今まで思ってたが物騒すぎだろ!!」
「余所見すんなぁ!!、“アームショック”」
腕に纏った稲妻がファイを襲う。しかし、目に見えない速度でファイは腕の真横にいた。
「遅いぞ?」
「何!? この技を見て交わしたやつはいないっていうのに!!」
男は更に攻撃を続けるが、一瞬で男の頭に乗っていたり、後ろに回り込んでいたりとかすりもしていない。
「ど、どうして、あたらない!!俺様は無敵なのに!!」
「井の中の蛙ってわけだ、オラァ!!」
「───────ッカ………!!」
避けられたことに驚き固まっている所に深く腹にめり込ませ、動けなくなる。これは決着がついたな。
「…………弱いな、佐藤はどう思う?」
「まぁ、どうせ名前だけなんだと鷹を括ってたんでしょう。あまりにも遅い若気の至りという感じですよ」
「………そうだったら、本番前に知っといて良かったな……」
ナンダは呆れ気味に佐藤に聞くと、その言葉に納得する。
「………おいおい、もうちょい頑張れよ………お前が仕掛けたって言うのに………」
「……………い、いや……俺はまだ負けてない!!……こ、これはまぐれだ!!」
「……まぐれでも、負けたもんは負けだ………大人しく待ってるんだ!!」
「ッッッックソがぁ!!」
往生際が悪い男にブチギレ気味にファイは諭す。しかし、それは逆効果だったようで、再び拳を振り上げる。しかし、それは第三者の力によってそれは中断される。
「ハイ、ストップストップ。」
その瞬間誰もわからないくらいの速さで、2人の人物があらわれ、ファイと男を止める。
「ここはストリートファイトのためにあるだけじゃないぞォ?」
小型銃を片手に男の方に向けながら言う。その言葉に悔しそうファイを見つめながら、離れていく。
(勝手に喧嘩をふっかけて、負けたらこれ……相変わらずひどいや………)
彼を横目に目の前に出てきたカウボーイハットを被った不気味な男を見つめる。全体的にガンマンをゴチャ混ぜしたような風貌だ。しかし、佐藤が知る限りこれ程強力なガンマンはいないと確信できる。
「……お前が依頼者か?」
「いや、違うナァ。俺は計画を伝えるためと人数の確認の為に来た、お前等と合うのはリスクがあるってよォ」
「というわけで、私達が代理で来たって言うわけ。だから大人しく聞いてよね?」
白衣を着た美人の女が言う。『ヨルムンガンド・テュポーン』とグリガム(in佐藤)以外、その容姿に見とれてしまっていた。
「さて、今回侵入するのは陰陽師の本部と言ってもいい所。各支部も一応バラバラになって現在攻めているよ。で、満を持して今、ここを責める。侵入方法は私の指示に従うように。最悪、死者はだしても良いけど、なるべく殺すことはないように。…………サンプルにするからね」
「………イイ女だ……後で俺の女にしてやる」
サラッととんでもない発言をした白衣の女に佐藤は少しブルつく。しかし、それも知らず呑気に誰かが言う。まあそう思うだろう。顔だけ見たら。
「まずは地下室から侵入をする。ワープを持っているから、それをくぐり抜けて、それからは各々が自由に暴れてもらっても良いよ。だけど、単独行動はしないように、なるべく固まって連携を取りましょう」
全て話し切ると手を大きくひろげる。まるで演説家の様な見た目で。
「ハイッ、ではいきましょう。楽しい楽しい蹂躙劇の始まりです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます