第19話 すべて見ているよ
始めに動いたのは龍幻の方だった。片手に持った刀を再び両腕で支え走り込む。
「
その発音と共に刀から纏うオーラが鱗状のようなものに変わり、スライムの首へ振りかざされる。
『もう少し早けレバ、トドイたのだが……』
スライムはその斬撃が届く前にローキックを腹にぶち込む。
「ガハッ!」
たとえ見た目は同じ人間でも中身や身体能力はスライムのほうが圧倒的に優っている。ローキックされた脇腹とは反対の方向へ吹き飛ばされる。
『……嘘だろ…もうちょい張り合えると思ったンダが……』
その吹き飛ばした方はおかしそうに頭を傾げる。龍幻は、蹴られた脇腹を抑えながらゆっくりと立ち上がる。
『キックはキツかったか?』
軽口を叩きながら、立ち上がった龍幻をニヤニヤと笑いながら見下ろす。
「カカッ、言うじゃねぇか……。ちょっと待ってろ。【龍鱗】」
そのワザはさっきの技と同じ、それを見て首を傾げたが、振りかざしたのはスライムではなく床のコンクリートであった。
そのコンクリートが傷つくと同時に龍幻の調子が戻っていくのを感じる。
「そんなに不思議か?、霊気吸収は?」
『……なるほど、そのまんまダナ』
「そういうことだ!!、【
調子を取り戻した龍幻から龍の頭がスライムに向かって飛び出す。龍頭は先手必勝の技に近い。速度がとても早いのだ。その上、威力が高く大体の妖ならこれで殺せる。スライムは腕を構えるだけでそこに突っ立っていた。
ザクッ!、と小気味良い音が路地裏に大きく響く。龍幻はニヤリと笑った。ざまあみろと。しかし、出てきたのはさっきと同じ姿をしたスライムの姿。
『痛いですね・・・これは痛い・・・』
最も、使う相手がそれに有効ならナと欠伸をしながら付け足す。しかし、それはブラフであった。
「【
『そう来ルか……』
龍幻はスライムの真上に立っており、すでに3つの爪がスライムに迫っていた。咄嗟に右手を構え、体を守る。その爪は腕をやっと切り落としたものの、その分威力が弱まり体には到達しなかった。
「それで終われるわけねぇよな!!、【龍頭】2連!!」
『いいウゴきをする……』
腕を修復する暇もなく2つに絡まった頭がスライムの方へと向かう。飛んで避けようとするがそこにもついてくる。
「そうだ、言い忘れてたが……この【龍頭】は追尾式だ」
『……やりますねぇ』
スライムもまたニヤリと笑うと腕を鞭に変化させ龍頭に当てる。当てられた龍頭はそこに口を開け消えていく。それを見た龍幻は眉間にシワを寄せる。
『効いたぞ……ああ』
「まじかよ……ここまでしてもか……いや!、まだまだ……俺様にはまだ手段がある。諦めるのはまだ早い……【龍尾】!!」
刀からのオーラが靭やかな鞭状へと変化し、それを大きく振りかざし、スライムの方へ向ける。
「少し女々だが……」
スライムもまた指先をを鞭状に変化させてはたき落とそうとするも、速度は変わらず捕まってしまう。
「オラァ!!」
勢いとともに【龍尾】を振り回し路地裏の壁へ叩きつける。そのおかげもあってか少しめり込んでいる。
『………キイタぞ、……だが惜しいな、もう少し力をつけてレバ……』
龍幻に向かって走り出すスライムの淀みの無い笑みでこちらに走ってくる。その姿を見て、言いようの無いような恐怖を感じたが、まだ戦意は衰えておらず、【龍頭】で急いで時間を稼ぐ。
『もうすコシ集中しロ!!、こんなヘナちょこなら話にならンゾ!!』
そう言いながら突破してくるスライムから逃げる様に後ろ歩きをする。しかし、余りに急ぎすぎたせいか、はたまた足に石があったのか、バランスを崩してしまう。
『……やハリ人間は一筋縄デはイカないか……スバラしい事ダ、とてもギリギリだッタ……』
コケた龍幻を見下ろしながら、ゆっくりと確実に歩いてくる。そこで龍幻は何かを感じた。この生命体は、圧倒的な強者として風格だけでない。生きようとしている者への興味とそれによる敬意。今までの発言は全て舐めているのではなく、ただ興味を持っていたと言うことを。それに気づくと、笑みが込み上げてくる。そして、圧倒出来るということの油断を見せてしまったスライムに、その不意打ちではあるが、最後に見せてやろうとした。
生きる者の意地汚さを。
『……すまナイが、何としてもタダでハ返せナイ…少なくとも一ヶ月はウゴけないだロう……』
足元にに触れるほど近くに接近したスライムは、手を大きな鉄球に変化させる。そうしてその丸を振り上げた時、龍幻は手をかざした。柏野家に伝わる伝家の宝刀にして、龍幻が唯一刀を使用せずに使える最終手段。必殺技とも言って良い。
「【
その瞬間、手をかざした方向に炎が激しく放たれる。黒い炎であった。スライムを含む周りのあらゆる障害物を炎で一瞬で飲み込んで行く。暫く炎を放出し、炎が消える頃には大きくあとが残っていた。地表もまた大きく抉れ、建物が炎の強さのせいで燃えるわけでもなく、タダその部分が不自然になくなる。
「………ッハッッッッ辛い」
久しぶりに技を出したせいで身体が動きにくくなっているが、精一杯の力を振り絞って立ち上がる。そして、倒れたせいで飛んでいってしまった刀を取ろうと後ろに振り返る。
『………ギリギリだっタ。まさかこんナ技があルとは…用心すルべきだっタ…』
突然の声だった。そして、心がキュッとしぼんでしまった。今だけは聞きたくない。振り返ると、少し楽しそうに薄ら笑いを浮かべ立っていた。
「お、お、お前……俺様が……倒した筈だ………な、なんでっっなんでそこにいる!!!」
『……ビビったか?、おレもビビるが。別に何の問題でモナいダロウ…それヨリ…歯ァ食いシバレ!!』
そう言うと今までとは比べ物にならないような速度でパンチを繰り出す。龍幻にはそれが見えず、避ける暇もなく顔を殴られる。
「ッッッッ!!」
『オラァ!!』
勢いに乗ったスライムに視認できず無防備になったところを、その勢いと共に左に腹を殴られる。とんでもない速さと瞬間のパンチにより、腹に大きな衝撃をぶつけられ、血を吐き出す。
「カハッ!!」
『ア、やべッ』
血を出したところを見て、更に萎縮してしまう。しかし、次期当主としてのプライドか、はたまた朱雀を超えたいという反骨精神のおかげかなぜだか体は無意識に動いた。
「………ま、だまだ。オッラァ!!」
龍幻による渾身の顔面フルスイングがスライムを襲う。
『ッウ!!、…クク……オラァ!!』
大きくめり込み顔が飛び散るが、すぐに再生し殴りに大きく振り込む。
「ブベッ!」
その踏み込んだパンチが元々限界であった龍幻の顔に直撃し、そのまま意識を失い倒れ込む。
『……危なかッタ、もう少しで体がタモテナくなるとこだった……というか初めテ会っタ人に刀モチ出すトか……悔い改めて』
そう一瞥すると、後ろのある人物を見る。霊力が研ぎ澄まされており、明らかにさっきの彼よりも強いというのが伝わる。スライムは帰宅するのを諦め、目の前の相手の能力を理解しようとした。
『何だお前(素)。なんで突っ立ッテんダ?……見てる限リ同じ和服仲間だナ……』
「さあ?、どうだろうね……おいで。【青龍】」
のらりくらりとした返事しかせず、試験管を取り出し、キャップを開ける。キュポンと子気味の良い音と共に現れる大きな龍。
目視するだけでは見えきらない全体に、
青の鱗を兼ね備えた美しい表面
まるで世界は自分に回っているかのような圧倒的な存在感。
『……こリャあ、冥土のみヤゲに良いもの見レタな』
その言葉とともに青龍はスライムが対応できない様なスピードでペロリ平らげる。
「……弱いね、やっぱり。もういい【青龍】、戻れ」
『グゴォォォォォォ………』
悲しげな声を出しながら試験管の中へと消えていく。残ったのは龍幻と突然現れた朱雀だけであった。
「……ほっといて置くか……それにしても残念だよ……もう少し強いと思ったのにさ」
そう吐き捨てるとその場から何事もなかったかのように一瞬で消える。
結果的にはスライムの勝利であったが、なんとも閉まらない結末になったのだった。
ーーーーーーーー
「いやぁ、すごい活躍したね。試作型……」
深郷田家の地下一階を勝手に改造して、エンペラーは初めて作った試作用のモンスターがとんでもない健闘をした事にとんでもなく嬉しかった。
「戦闘力はワタシの仲間のスライムの半分以下、悪く言うとゴブリンと戦っても一方的に嬲り殺される。だと言うのにこんな泥沼になるんだもん。鼻で笑っちゃうよね。ま、ワタシはそれより弱いんだけどね」
アハハハと自虐ネタをしながら次の新しいモンスター作成に移る。試作型は言わずとも量産決定、人知れず深郷田の予算が嵩まるのだった。
「いやぁ、これだからやめられないね。趣味でモンスター制作するのはさ。……あ、そろそろかな戻って来るの」
そう言うとカチャカチャという音共に共にボロボロになった電化製品を蜘蛛のような姿をしたロボットが運んでくそれを見てエンペラーはほくそ笑んだ。
「君たちが戦いに夢中になっている中、回収させてもらったよ。有難うね。試作品のことは忘れないよ」
そういいながら、新しく買った電化製品を解体する。
「次はワタシの親友にしようかな。……いや、彼だけだ。彼しかいらない。天使かな?、あ、良いね。ゾンビアタックみたいになれるからね」
フフフ楽しみだなぁと零しながら、自動量産に向けて、機器を開発するのだった。
疑似型 各モンスター?
ーーーーーーーー
量産型スライム
戦闘能力
12
SKILL
フィジカルモンスター 4
変装 9
説明
エンペラーによって遊び半分に作られた試作型モンスター。無意識による身体能力の高さの憧れによって、それが顕著に能力に出てしまった。また、本来の姿である液状のタイプがないため何かに変装しなければすぐに死んでまうくらいには落ちこぼれ。そのため本来の評価として辛かったものの、今回の奮闘により、仲間が増えることとなった。また、人形ではあるが液状であるため関節技が効かない。
スライムの成分を色濃く受け継いだため、淫夢語録を話す時は突然流暢になる。
ーーーーーーーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます