転校生は白黒×黒白
水曜日の朝。一晩中うんうん唸り続けて重い頭を抱えてなんとか教室にたどり着き、ぼーっとしながらホームルームを聞き流す。
こうしている間にもフジモトの復学が、タイムリミットが迫ってくる。もはや後三日、今日も進展は見いだせない。
最悪おれは盗撮魔の濡れ衣をかぶって全女子から嫌われたってかまわない。だけどフジモトだけはどうか……
「……ところで、今日から転校生がこのクラスに加わる。みんな、仲良くするように」
ほとんど聞き逃していた担任の言葉の最後を捉えると、教室じゅうがざわめいた。
「転校生!? マンガかアニメでしかみたことない!」
「せんせー、カワイイ子ですか!?」
「カッコいい王子サマですか!?」
「いっそどっちも!」
まじめな話はまるで聞いていないのとは打って変わっての盛り上がり。これがウチのクラスである。
ボルテージがあがった現金な野郎どもにやれやれといった顔をしてから、担任は閉まっていたドアに向かって入ってくるよう声を掛ける。
静かに扉を引いて、規則正しい足音を立てて入ってきたのは。
そこらの真面目系女子よりも真っ黒で艶やかな髪を伸ばし、紅い瞳でまっすぐ教室を見渡す彼女は。
白ではなく、よくある紺色のブレザーにグレーのプリーツスカートを着ていても、間違いなく今おれが一番待ち望んでいたヒーローだった。
「ああ! あのときのツルぺたハサミ黒髪ナース!!」
だから、思わず立ち上がって指さして叫んでしまったのは多めに見てほし――
「痛っ!?」
授業中に寝ていても一顧だにしない代わり、ホームルームの進行を妨げられることを何より忌み嫌う我らが担任サマの愛のつぶて(チョーク)が
デコを直撃。おれは机に沈んだ。
さらに見間違いでなければ、ツルぺたハサミ黒髪ナース改め冬壁の凍り付くような視線がおれを灼いた。
「……よし、黙ったな。お前たち知り合いか?」
「いえ、女子を無駄な脂肪の多寡で判断するような男子と知り合った覚えはありません。人違いだと思います」
切り捨てるように断言する冬壁と頭を押さえるおれに教室がまたひとしきり湧く。チクショー、この脳と直結した口が憎い。
「まあいい、自己紹介しなさい」
彼女は促されるままに名乗った。
「初めまして、
「ヒュー」
「かわいいじゃん……胸はないけど」
そそくさと頭を下げる冬壁のすました顔に野郎どもの誰かが口笛を吹く。見渡すと、男のおれから見ても視線がやたらとねちっこい。胸はなくても人気の出る見た目なんだなと思いながら冬壁の制服の該当個所に目をやると、紅い目で刺すようにまた睨まれた。おっかねえ。
「ん? もう一人はどうした」
開いたままの戸口をのぞきながら担任が言う。
転校生が……もう一人?
「ああ、それは……」
冬壁の口調と表情が、あの日夏樫が割って入ってきたときと同じように、うげ、という感じになる。まさか……
「ふふ、ウチにあいとーてたまらんかったんか? 定森くん」
耳元にふー、と吐息が吹きかけられ、おれの全身の毛が逆立った。
「おわっ!?」
椅子から五センチは浮き上がって振り返ると、横の空席だった机(フジモトの席)にひょいと腰掛ける白黒のそいつがニヤニヤしていた。
間違いない。こんな登場をするのは――
「な、夏樫!?」
「そ、みんな大好き、歌って踊れる全時空のアイドル、
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