第6話 配信者とギルマスと

 私の名前は如月きさらぎ霧雪むせつ、花も恥じらう十九歳の乙女の筈です。

 職業は大学生であり、またリシアと云う名前で配信活動も行っている……んだけども、問題はその配信に関してですよ。

 私の人生における最大のやらかしは配信なんて初めてしまった事だと自負しているし、実際絶対にその通りだとも思うけれども、だからってこりゃあないでしょう。


 初配信は好調だった。

 いや、同接3人を好調と言っていいのかは不明だけど、今と比較したら一切の失言がないだけ全然マシだ。

 そんな私に転機が訪れたのは、間違いなくFVRの死にゲー実況を始めたあの時だ。

 

 その時の配信で、私は思いっきり発狂した。

 

 で、めっちゃ切り抜かれて何故かバズった。


 その後別のゲームを実況していた時、NPCだと思って煽り散らかした敵が中に人間の入ってるプレイヤーでそれはもう炎上した。


 そして、今。

 クリスマスだと云うのに一人寂しくディザイア・オンラインの配信をしていた所、たまたま仲良くなった初心者さんと話してる途中で思いっきり失言したので配信を切り、弁明の為の雑談枠を立てて––––––––


「リスナー、なんでお前ら全員私が息を吐く様に年齢詐称した前提で話進めてるの、おかしくない!?配信者の失言くらい素直に受け取っとけよ捻くれ者がよ!」


 私は、またもや絶叫している。

 アパートに防音工事してもらっていなければ、きっと今頃私は住民トラブルで面倒な事になっていただろう。


[流石に草]

[お前よりは捻くれてない]

[未成年がクリスマスにMMOせんやろ……]

[ガロエピから逃げるな]

[それよりもあの初心者ちゃん出せ]


 コメントの反応はこれである。

 そうだった、クリスマスにこんな場末の発狂芸人の配信を追ってる奴らが碌な人間な訳ないんだった。

 

 ……一応言っておくが、私は視聴者が嫌いな訳じゃない。

 幾度の発狂と炎上を乗り越えてもなお私の配信を見てくれている人達の事を本気で否定できるほど、私はクズじゃないし思い上がってもいない。

 

 だがなあ––––––––


「私の事を何だと思ってるんだよお前たちは!?あとガロエピは数日前にサ終しただろ!?……やばい思い出したら悲しくなってきた。泣きそう。なんだかんだ別キャラ作って配信外で遊んでたんだよね、あのゲーム……所属してたとこのギルマスさんもいい人だったしさー……実はサ終の瞬間も見届けてたんですよ?」


 私は昔、ガロエピことガロウズエピックオンラインというゲームの配信を一度だけ行ったのだが、結果は微妙。

 全然同接が伸びなかったし、ゲーム自体は楽しいが要素が多すぎて配信には不向きだったので、やり込むのは配信外にしようと決意したのだ。

 サ終してしまったのは悲しいが、それよりもギルドのメンバーにもう会えない方が辛い。


 ガロエピ内で一番金を持ってるギルド、なんてバカみたいな称号を名乗る為に全員が本気で取り組んでいたのは楽しかった。

 ただ、あのギルマスならまた別のゲームで金策してそうな気もするし、またいつか会えるかもしれないな。


「あーあ……思い出してセンチメンタルってきた」


[蛮族に涙は似合わんぞ]

[初心者ちゃん出せ]

[案内ぶった斬るの良くないから今すぐディザオン戻れ あと初心者ちゃん出せ]


「……お前らそんなアクセンさんの事気に入ったの?丁寧白髪メカクレ俺っ子の事が?私よりも?」


 確かにアクセンさんは可愛いし良い人だと思うよ?

 でも、流石にこの人気はおかしいと思う。


[年齢詐称発狂芸人よりも可愛げあるやろ]

[切り抜きから来ました 初心者ちゃんって誰ですか?]

[初心者ちゃんは初心者ちゃん]

[さっきゲーム内で出会ってた子やね]

[なお、その初心者ちゃんと話してた途中で失言して逃げてきた模様]


「いや、逃げてきてはないからね?一応フレにもなってもらったし、許可もらえたらまた一緒に遊ぶかもしれないから一旦落ち着いて。それと……もしかしたら本人見てるかもしれないから言う気なかったけどさあ、アクセンさんの中の人って男性かもしれないんだよ?お前ら的にはそれでも良いのか?」


[何の問題が?]

[まあそんな気はしてた]

[問題なくて草]

[むしろそっちの方がお得なんだよなあ]


 もうやだこのリスナー達。


 * * * * *


「……リシアさんの配信、思ったより治安悪くはないですね?」


 ゲーミングモニターの大画面に映し出された配信画面を横目で眺めながら、イナリさんへ送るメールの文章を打ち込む。

 リシアさんのアバターがまさかリアル顔そのまま持ってきてるとは思わなかったけど、そんな事がどうでも良くなる程ガロエピのプレイヤーだった事実が嬉しい。


 彼女の言うギルマスさんとやらも、もしかしたら俺の知っている人だったりするかもしれないが……ただ生憎と俺が連絡先を知っているガロエピ勢はイナリさんただ一人なんだよな。


 ただ、予想外だったのは…… 


[とりまアーカイブから初心者ちゃんの俺的名言集めてきた

『俺にモンスター擦り付けないで下さいよ誰ですか!?』

『流石に悪意あるのは駄目なんですね』

『金貨飛ばし。ゴルドを消費して攻撃するスキルです』

『いやあ、思い出しただけで吐き気がしますね!』

『リシアさん、殺したんですか』

『フルダイブで酒飲むのは未成年飲酒に該当するんですかね?』

『……そういや配信中って言ってましたけど、今の発言大丈夫です?』]

[たすかる]

[草 仕事はえーよ]


 なんか、俺が人気出てるのはおかしくない?


 困惑に包まれながら、メールを送信する。


 * * * * *


「やってられないよなー、転移魔法かけられて王の目の前にワープ、そのまま投獄とは。一旦ログアウトしたけどさー、どうしよ。ばんに助けに来させるか?確か投獄されたらゲーム内で六日……つまりリアル三日はそのままだったよねー」


 リビングに置かれた白いソファーに座りながら、味噌味のカップラーメンを啜る。

 うん、企業努力の賜物たる謎肉が美味しい。 

 僕は自分の事を舌が肥えている方だと自覚してはいるけれど、だがしかしジャンクフードに惹かれる質なのもまた事実。

 エナジードリンクを流し込み、タブレットに届いたメールの通知を確認する。


 送り主は刈屋かるやばん––––––––言うまでもなく、僕の親友だ。

 彼にも申し訳ないし、そろそろメール以外の連絡手段を作っても良い気はするけど……ま、当分はこのままでいいか。


件名 |ディザイア・オンライン始めました

差出人|karumeyaki@************

本文 |イナリさんが正門前で待つと言っていたのは知っていますが、見つからなかったのでメールを送らせて頂きます(多分俺がキャラメイクに手間取りすぎて遅れたのが悪いですよね……?すみません)

ディザオンでの名前はアクセン、フレンドコードは********です。


これは別件ですが、イナリさんってどうせガロエピのギルメン達の連絡先握ってますよね?年末か年明け辺りにオンラインでもリアルでも構わないので、皆でもう一度集まって話したりしたいなー、と元ギルマス的には思っていたりします。

やりたいならサ終前に企画しておけよ案件ですが、ご一考お願いします。


それと、イナリさんマジで俺の本名メールに書くのやめてほんと頼む。


「うーん、毎度ながら無駄に文面が丁寧。最後一文は見なかった事にするとして……僕がいなかったの、捕まったからなんだよなー。判、じゃなくアクセンに保釈金用意してもらうか。一万ゴルド位ならまあ……何とかしてくれるでしょ!」


 そうと決まれば、早速ヘルプを送るとしよう。

 ギルドメンバーへの連絡は……まあ、今日の夜にでもやっておくか。

 大体みんなディザオンへ移住してるみたいだし、ディザオン内で集まる方針で考えるのが一番丸そうかな。


「ただ、それに応じてくれるかは不明だしなー……いつメン集めるにしろ、リアル忙しそうなのが三人、十中八九配信やってるのが一人。多分無理な気もするんだよねえ。……と、返信来た」


件名 |イナリさん何やってんです???

差出人|karumeyaki@************

本文 |魔術師に喧嘩売られてワープ、その後投獄とか笑って良いですよね???

一万ゴルド集めるのはやるだけやりますが、期待せず待ってて下さい。


あ、マジで出来たら黒毛和牛送ってくれ すき焼き食べたい


「判が軽いノリで何か言ってるの、久しぶりに見たなー。仕方ない、望み通り期待せず牢の中で待っとくか」


 FVR機器を被り、ディザイア・オンラインの世界へ移動する。

 ……本当に黒毛和牛送ったら、彼はどんな反応するんだろうな?


 




           









 









 

 

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