妥協の末に僕が行った最大限幸福な自殺について
執事
前編
「ヨッシャー!ついに手に入れたぜ!幻の基地に隠されたUSB!」
「流石はタッちゃん、基地への潜入もお茶の子さいさいだね」
「へへっ、早速繋いでみようぜ!面白いもんが入ってるといいな!」
子供達の手には一つのUSBが握られていた、大人が話題に上げるのも避けるその場所に入り、手に入れてきた戦利品が。
パソコンに繋ぎ、少し待つ。
開いてみると一つの動画がファイルの中に保存されていた、動画を開く。
そこには一人の男性が映し出されていた、子供達は彼の表情を言葉で表現する事ができなかった、何故ならそれは彼らが知らない表情だったから。
「動画?てかなんでコイツこんな顔してんだ?」
「見たことない表情だね……でもどこかでこんな顔見たことあるような」
二人の子供は疑問を抱えたまま、好奇のままに行動を始めた。
エンターキーを押す、再生が始まる。
『あーあー、ちゃんと声も入ってるかな。まぁ、声が録音できてなくても、映像が撮れてなくても、結局はどうでも良くなっちゃったんだけど……それは言い過ぎか』
「始まったな」
『えっと……まず初めは自己紹介かな、僕は英街大学の映画サークルの真壁恭介です。あ、といっても見る方じゃなくて撮る方ね。最近……少し前はTikTakでショートムービーが結構流れてきてたよね、そういうのを見てたなら僕らの作品を知ってるかもしれないな。この前載せたのは結構バズってたし』
「ティックタックってなんだ?」
一旦動画を停止したタッちゃん───有馬タツキが隣にいた優希に問いかける。
タツキは知っているのだ、優希が自分の何倍も知識を有している事を。
そして動画を停止したことについて優希は何も言わず問いに答える。
優希は知っているのだ、タツキが少しでも疑問を持つと立ち止まってそれを解消したくなる人間だということを。
「忘れたのタッちゃん、教科書に載ってたでしょ。昔存在したアプリだよ、犯罪者しか使わないアプリ」
「犯罪者専用アプリ?そんなんあるんだな……」
再び再生、エンターキーが押される。
『自己紹介は……これで終わりかな?わざわざこんなところまで来て好きな食べ物とか紹介する必要はないよね。これを見れるって事は、君も多少はあいつらの生態を知ってて、そしてあいつらから逃げてきてこの自衛隊駐屯地に駆け込んだってわけなんだから、きっと君が求めてる情報はそんなのじゃない』
「ジエータイチュートンチってなんだ?」
再び動画を止めたタツキがまたもや問いかける。
「さぁ、僕でもわからないな。あの基地の名前っぽいけど……聞いたことがないや。ジエータイなんて名前は聞いたことないからあの土地のオーナーだか会社の社長だかって線も薄いけど。あぁでも駐屯地はわかるよ、この前見た戦争映画に出てきたんだ」
「センソー映画?」
「戦争、人と人が殺し合う事。なんでも大昔にはそんなことが行われてた時代があったらしいよ」
「この前近所の山下さんと木下さんが殺し合ってたけどあれがセンソーなのか?」
「それじゃ単なる殺し合いだね、戦争ってのはたくさんの人が殺し合うことさ」
「ふーん、そんなに沢山死にたい奴らがいたんだな昔は。最近じゃ人殺したい奴は減ってるってのに」
再び再生。
『まぁでも君が何も知らない一般避難者って可能性もある。どうせここには奴らは来ないから、時間はたっぷり……ってわけじゃ無いけど結構ある。順に説明するよ、この社会のこれまでとこれからを」
「奴らだのあいつらだのゾンビ映画みたいなこと喋るねこの人」
「優希はゾンビ映画とか見んの?ガキ向けだろあんなの」
「僕らだってガキでしょ。それに僕が見てたゾンビ映画は昔のやつ、大人向けの……あぁ!そうだ!ゾンビ映画にいたんだこんな表情の人!」
母の部屋から見つけたゾンビ映画のDVD、それに出てきた男を優希は思い出す。
「へー、意外とこんな顔のやつって世の中にいんだな。十一年の人生で俺は見たことないけど」
「僕も見たことないよ、それこそ映画で見たのも一回だけ。なんだかわからないけどゾンビから逃げてる時にこんな顔してたね」
「鬼ごっこしてる時の顔なのか?」
「いや……見た感じだけどゾンビがその男を殺そうとしてて、その男はそれを拒否してたんだ。だからこれは……拒否する時の顔なのかな?いやでも……」
「よくわかんねぇ設定の映画だな、なんで殺されるのを拒むんだ?」
「さぁね、特殊設定の映画っぽかったけど、あまりにも拒否するのが当たり前みたいにストーリーが展開していったからよくわからなかったよ」
「ふーん、まぁ先見ようぜ」
再び、再生。
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