第2話 ガチで噛まれた件(※動物に噛まれたら、すぐ病院に行きましょう)
猫を飼って一番苦い思い出は、一度だけ本気で噛まれてしまったことだ。
誤解してほしくないのだが、こちらがそれだけのことをしてしまったという話で、「元野良は懐かない、飼わない方がいい」とかいう話ではないので、その点は強調しておく。
どうしてそんなことになったかというと、前回の話のように、まだ猫の洗濯ネット入れに四苦八苦していた頃、投薬に失敗したのが理由だった。
その時、猫氏は風邪を引いていた。
正確に言うと、「猫風邪」はくしゃみや鼻水などの症状が人間の風邪と似ているからそう呼ばれるだけで、人間の風邪とは違うのだが、それはさておき。
猫氏がくしゃみをしているのに気付いた私は、心臓バクバク、苦労しながらなんとか彼を洗濯ネットで捕まえてキャリーに入れ、病院に連れて行った。そして診断されたのが、猫風邪。目薬を処方された。
こうやってやるんですよと、猫の頭を押さえて上を向かせ、瞼を持ち上げて点眼するお手本を、病院の先生に見せてもらった。同じ薬を、鼻にも入れるらしい。
で、できるのか? 内心、冷や汗が出た。
うちの猫氏、病院では緊張してとてもおとなしくなる。キャリーから出されると、ぴたっと伏せて診察台にへばりつき、いつも「おとなしいねー、緊張してるね」と言われる。猫は緊張すると肉球に汗をかくというのを知った。
ともかく、薬をもらって会計を済ませ、帰宅。投薬は一日二回ということで、一回目は先ほど病院でやってもらったので、二回目は夜にやらなければならない。
放っておけば悪化する可能性もあるので、今回はきちんと投薬しなければならない。そう意気込み、相方が保定、私が投薬という作戦で挑もうとした。
しかし、洗濯ネットを持って近付くだけで不穏な気配を感じたのか、猫氏はシャーシャーと言って、ニンゲンの横をすり抜けてしまった。ぐるるるる、と本気で怒っている時の、低い唸り声もする。
しかし、上手い具合に部屋の隅に行ってくれたので、このまま逃げ道を塞いでいけそう……と思ったが。
猫氏は近付こうとする相方の横をすり抜け、私の方へ飛びかかってきた。次の瞬間、
「
私は腕を噛まれていた。前腕の真ん中あたりを、がぶりと。そして、再び逃走。
猫の顎の力は強い。どんな角度で噛まれたのか定かではないが、私の腕には鋭い前歯の痕が、深々と一つ穿たれていた。痛い。めっちゃ痛い。
あまりのショックに、その日の投薬は断念してしまった記憶がある。
しかし、こんな事態を招いたのは、こちらのやり方が悪かったからであって、決して猫が狂暴だから悪いという話ではない。自分より大きな生き物二匹に追い回されたら、そりゃあ猫も怖いだろう。反省すべきは、スマートに作業できないこちらであって、猫は悪くない。
元野良だから懐かないわけではなく、甘えん坊でも投薬や通院が苦手な子はいるだろう。保護猫でも懐く子はいるし、猫にもそれぞれ個性がある。必要なのは、その子に合わせて対応していく、ニンゲン側のスキルと知識だと思う。
だが、当時はそこまで悟る余裕はなく、その日もしおしおと反省して、物陰に隠れる猫氏の側にお詫びのおやつを置き、眠りに就いた。
次の日、噛まれた箇所は見事に腫れ上がっていた。
一応念入りに洗い(当社比)、アルコールで消毒したが、ダメだったようだ。手を握ろうとすると、その箇所も一緒に引き攣れて痛い。日常生活に支障が出るレベルだった。
これは放っておいたらヤバいやつか? と一応ネットで「猫 噛まれた」などと検索したら、「下手したら手術」「破傷風」「敗血症」等、肝が冷えるワードが出てきた。
動物の口の中には、たくさんの菌がいる。噛まれたらどんな感染症を引き起こすかわからない。しかも、傷が深かったら、素人の洗い方では洗い切れない。
何科に行けばいいんじゃ? 外科か皮膚科らしい。
近くの病院を探し、急いで受診した。幸い、化膿したりはしていなかったので、傷口を切開して洗浄などという事態には至らなかった。
抗生物質の消毒液と飲み薬を処方され、傷口を消毒して薬を飲んだら、次の日には腫れも収まって、痛みも引いてきた。抗生物質、すごい。
ちなみに、引っかかれた時も感染症にかかる危険がある。遊んでいて興奮したりすると、不意に噛んできたりすることもある。そういう時は、石鹸と流水でよく洗い、病院を受診したほうがいいらしい。
しかし、問題は猫氏への投薬の方だった。この時どうしたのか、正直あまり覚えていない。けれど、何とか頑張って投薬した気がする。
視界を閉ざせば(多分)おとなしくなる、ということを覚えたのもこの頃だったと思う。誰かの役に立つかもしれないので、その方法を記しておこう。
まず、タオルやブランケットなどを素早く頭に被せる。洗濯ネットを被せるよりは楽だと思う。ここは覚悟を決めて手早くやるしかない。怖気づいたら負けだ。何の戦いだよ。
そのまま被り物を着せるようなイメージで、頭と前足を包み込む。頭を完全に出してしまうと逃げられるので、その点は注意。それと、痛くない程度に前足を押さえる。猫の前足をつい「おてて」と言ってしまうのは、猫飼いあるあるだろうか。
ここでおとなしくしてくれれば、投薬や洗濯ネットに入れるのも楽にできる、ということに気付いた。
そんな感じで点眼し、猫風邪の症状は治まった。
重ねて言うが、猫は悪くない。ここに書いた方法も、全ての猫に有効なわけではないだろう。なるべく猫のストレスにならないように対処できるようにしたいし、どの子も健康で長生きしてほしいと思うのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます