第8話 第一回作戦会議

 こうして唐突に始まった(と言っても多分お二方は最初からそのつもりだったであろう)作戦会議なのだが……


 「……飽きた。おやすみ」

 「ちょっとかなえ先輩!?」

 

 会議が開始してからわずか5分、先輩は机に突っ伏してしまった。


 「Zzz……」


 しかももう寝てるし。その間、なんと3秒。いくら何でも早すぎでしょ……


 「ま、まあ、かなえ先輩は最初からこうなるって私は分かっていたから……」

 「じゃあなんでこの人呼んだんだよ?」

 「ほら、一応部長だし。その場には居た方が良いかなぁって思って……」

 

 そんな引きつった表情で言われてもねえ?

 でもその対応を見るに、こんな事は日常茶飯事なのだろうと簡単に予想がついてしまった。


 「よし、じゃあかなえ先輩は置いといて……」


 どうやらマジで先輩抜きで進めるつもりだ。

 これで良いのかよ部長さんよ……

 って言っても答えは返ってくることは無いか。この言葉は心の中にでも仕舞っておいて次の機会にでも言ってやろう。


 「それで、まだ他に良い案はある?」

 「そう言われてもねえ……」


 そう言いながら思わず頬杖を突いて意味もなくホワイトボードを見つめ始める。

 新入生の呼び込み、勧誘ポスターの掲示。一般常識内でおさまるような案はもう一通り出そろってしまっていた。

 じゃあキチガイみたいな案を出せばいいじゃん。って思いもしたが、じゃあ誰がそれを実行するんだよ?って言われたら間違いなく俺になるのであえて言ってない。

 視線を少し動かすと石原も何も出てこないらしく、腕を組んでホワイトボードを見つめたまま一切動かない。

 どうしたものかねえ……

 

 「ああもういいや!なにかそのうち出てくるでしょ」

 「適当すぎだろ!?まだ会議が始まってまだ5分だぞ?」

 「それよりも天谷に伝えなくちゃいけないことがあるのよ」

 

 無視かよ。しかも藪から棒すぎるし……

 石原はホワイトボードを雑に部室の隅へと追いやった後、何かを手に持って俺の元へと近づいてきた。 

 

 「はい、多分聞くより見た方が早いかも」


 そしてその紙を俺に見せびらかしてきた。てか位置が胸元なので凝視しにくい。

 まあいいや。えーとなになに……


 「クリエイティ部、部訓……?」


 如何にも文章作成ソフトで適当に作ったであろう文字を読み上げてみる。 


 「そう。まあほとんど適当なことしか書いてないけどね」


 じゃあなんで渡したんだよ?

 ……と思いはしたが、伝えたいことがあるって言ってた訳だし目は通してみるか。


 ”クリエイティ部、部訓”

 1.期限や約束は出来る限り守る事!

 2.向上心は常に持ち続ける事!

 3.個性は絶対に捨てるない事!


 なんだろう、なんかもう色々とツッコミたい。でも一つだけ言わせてくれ。

 これは部訓とは言わないだろ。

 石原はこれで何を伝えたいのだろうか……?


 「……一番見てほしいのはここなんだけど?」


 むすっとした声で石原は一番下の文章をペンで指した。その項目は……


 4.入部希望者はクリエイティブな人間でなければならない。もしそうでないと判断されたならその人は退部する事


 そう記載されていた。

 でも何故かこの項目だけマッキーペンで書かれていた。めちゃくちゃ後付け感満載だし。 

 

 「まあ見ての通り、この部は入部するには条件が必要なのよね」

 「ふーん……」


 今時、入部条件とか設けてる部活があるんだ。この部は全国の強豪校か何かなのかな?そんな噂は聞いたことないんだが?

 いや違う、そうじゃない。俺が言いたいことは他にある。


 「……あのさ石原」

 「なによ?」

 「なんで俺はこの部に入れたんだ?」


 当然湧き上がってくる疑問だった。

 だって俺、その基準に満たしているとは到底思えないんだけど。言ってしまえばただのオタクな訳だし……


 「まあ、それは……雑用?」

 「理由が適当すぎる……」

 「でも顧問の先生は納得してくれたよ?」

 「どうして……」


 もうちょっと他の案は無かったのだろうか?そして何で顧問はよくこんなので承認したんだ?絶対に面倒くさくて適当に対応しただけじゃん。


 「じゃあ今そこで寝ている先輩もこっち系なのか?」


 そう言って俺の気づいたらソファーですやすやと寝ていた先輩を指さす……のは失礼なので手の平で差し出すようにジェスチャーした。


 「いや違うけど?れきっとしたクリエイター。曲つくってる人」

 「マジかよ……」


 さっきの話的に完全に同族だと思ってた。こんな人でもなれるもんなんだな。

 いや、私生活は関係ないか。普通に侮辱罪になる。

 てか曲関係の人って言われても範囲が広すぎて何も特定できない。歌ってるの?作ってる?

 

 「えーと確か……あったあった。こういう曲」


 そう言うとスマホから曲を流し始めた。

 ボーカルは無く落ち着いた曲調だ。作業用のBGMとしてよく使われそうだ。

 そうだ、まるで何かを待機しているかのような……

 ……って待て待て待て!?


 「この曲たまに瓜江ルイスの生放送で流してるやつだろ!?」

 「よく分かったね。さすがウリナー!」


 なんか妙に聞き覚えがあったのは気のせいではなかった。石原は妙にウキウキな声でそう答えた。背中もバシバシ叩かれてる。痛い。


 「しかもここだけの話、実は瓜江ルイスの配信用BGMは全てかなえ先輩に依頼して作ってもらった曲だよ」

 「マジか」


 なんか唐突に新たな事実が発覚してしまった。

 そうか、まだ初対面だからまだ何とも言えない人だと思っていたけれどちゃんと後輩思いなのかな?

 たとえそれが、ただ自分が作りたいだけだから。っていう理由でも結果的に今の彼女を作り上げた人物の一人なのだろう。

 素直に尊敬だ。


 「まあお金取られたけどね」

 「いい商売してるなこの先輩……」


 前言撤回。この先輩はクソだ。後輩から金巻き上げて楽しいんか?


 「話がそれちゃったね。取りあえず知ってもらいたかったのはこの入部条件の事」

 「なるほどね……」


 だいたい理解。

 つまるところ、クリエイターを探して部に入れろって事か。

 ……うん


 「なあ、入部条件の撤廃とか出来ないの?」

 「それは無理」

 「即答かよ……」

 「だってこの部活、入部条件があるから存続していたような部活だったし。もしそんな事言い出せば……どうなるかは分かるでしょ?」


 だから部訓の最後っ屁に無理やり書き足した感じになってたのか。

 

 「そうは言うけどさ、実際そんな人たちがいなかったから部員が2名だったんじゃないのか?」

 「正論パンチが痛いわね……」

 「だろ?だからそんな都合のいい存在なんてそう簡単に……」


 そう口にした時、俺の脳裏にとある人物の顔が思い浮かんできた。


 「……?どうしたの?」


 言葉を急に止めてしまったせいかきょとんとした表情の石原。


 「……いたわ」


 俺のあまりにも少なすぎる交友関係に、奇跡的に一人だけ該当者が居た。


 「……うそ?」

 「いや、本当」


 信じられないといった顔をしている石原。無理はないかも知れない。なにせ今まで一人も探し出せなかったのが急に入部してきた雑用(仮)くんから出てきたんだ。


 「えっ?誰?その人って誰なの?男?それとも女の子?」

 「俺にガールフレンドが居るとでも?」

 「……」


 何とか言えや!

 親族以外で異性との交遊があるのはお前だけじゃい!


 「それでそれで!誰なの?」

 「まあとりあえず落ち着け」


 それに身を乗り出して俺の方を揺さぶりまくってくる石原。普通にゲロるからやめてほしい。


 「いいか?こういうのは最後のとっておきにしておくべきだ。あいつの事だし断ることは恐らくないはずだけど……」

 「確証はないのね」

 「まあ、あいつも人間な訳だし」

 「主語がデカすぎるわね……」


 こればかりは仕方がない。

 アイツとの付き合いは結構長いけど結局今年もクラスは違ったわけだし、そう言った意味ではここ最近の交友は控えめだ。

 実際、あいつもこんな事をしている暇があるのすらも知らないわけだし。


 「とりあえずアイツとはこっちで話は進めておくよ」

 「うん。ありがとっ」


 石原は感謝の言葉と共に、はにかみを見せてきた。

 その表情はあまり直視できたものではない。まだ何もやってないのもあるし。


 「でもそうだとしても一人足りないよなあ……」

 「そうよね~……」

 「「うーん……」」


 声をそろえて唸ってしまう。

 どのみち、他人を勧誘しなければならないのは避けられないもんな。

 

 「取りあえず意見を挙げるだけ挙げるしかないかぁ……」

 「そうだよなあ……」


 そして俺達は再び、新規加入者の意見をヤケクソ気味に挙げていった。

 え?何?結果?

 言うまでもないだろ。 

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