カウントダウンイセカイタイム

あおいろ

第1話 〜始まりの[死]〜

些細な悩みや、少し嬉しかったことがあると、俺ハヤトはいつも町の海沿いの崖に身を寄せる。

ここの景色は地域の観光スポットでもあるのだ。

波打つ海、沈みゆく太陽、その奥に永遠と続く水平線を眺めていると、いつものように友達のソウが後ろからやってきた。

俺は念の為、来た人物が誰なのか後ろを振り向いた。


「やっぱりここにいたか…ま、いつもの事なんだけどよ…」


ソウは呆れたようにため息をついた


「やっぱりお前か…良いじゃん。ここが好きなんだし。で、今日は何の用だ?」

「あのなぁ、もう午後6時になるんだぞ。お前の親に頼まれて探しに来たんだよ。」


ハヤトは、驚いた顔をしていたが、ソウは、その奥には何か違う感情があるような気がした。

少しの間、2人は景色を眺めていた。


「それにしても、ここの景色はいつ見ても良い景色で変わらないよな。お前のように毎回見てると飽きてくるけどな。」

「あはは……ん?」


俺は崖っぷちに女性の人影が見えた。


「ソウ。あれ誰だ?」


ソウも俺の声でようやく気がついた。

カメラを持っていたので、俺含め、2人はおそらく、観光客だと思った。

ここら辺はスポット地からかなり離れている場 所なので、ここに人が来ることは珍しいなとか思った。

落ちないように崖から離れてはいるが、この町の住民である2人は、女性の周辺に崩れそうな岩場があることを知っていたので、ソウは女性の方に歩み寄りながら、


「すいませーん。そこら辺は危ないですよー。」


と叫んだ。

女性には聞こえなかったのか、こちらに振り向かない。

ソウはもう少し近寄っていく。


って、そこは崩れかけの崖じゃねぇか。

俺はすぐにソウに叫んだ。


「ソウ!そこはだめだ!下がれ!」


俺が叫んだ時にはもう遅かった。

ソウの足場は崩れ、ソウはそのまま頭が白く なった。

──────────

俺…ソウが気がつくと、俺の手は上に投げられて、俺はそのまま落ちずに上に上がれた。

それとすれ違うかのように、落下する人影が見えた。

恐る恐る下を見ると、血だらけの少年が倒れていた。

ハヤトだった。


「ハヤトーーー!」


どのくらいの声量だったのかなんて思い出せない。あの女性がどうなったのかもどうでもいい。

俺はただ下にいるハヤトの所に向かった。


「ハヤト…頼む、何か喋ってくれ…」

「……あ………」


ハヤトは息をしていた。しかし、あまりにも出血が多かった。


「ハヤト!待ってろ!今救急車を…」

「…もういい…ソウ…」


ハヤトの発言に、俺は怒りと悲しみが混じったような気持ちになった。


「何言ってるんだ!お前、このままじゃ…」

「俺はもうすぐ死ぬ……この出血量だ…にしても、やっぱり痛いな……お前と…あの女性は無事なのか…?」


俺は女性の安否など知らなかったが、ただ「無事」とだけ言った。


「そっか…ならいいや……俺の伝言…親に伝えてくれ…」

「だめだ!お前は死んだら…!俺のせいで、死んじまうじゃねぇか!親に心配かけさせる気か!」

「産んでくれて…ここまで育ててくれて…ありがとうって……」

「こんな終わり方……!絶対お前を助ける!まだ死んだらだめだ!」


2人の目はもうとっくに涙で溢れていた。


「最後に…ソウを助けられて…良かったよ……」

「俺のせいでお前が死ぬのはだめだ!頼む、死なないでくれよ…」

「………今日まで…生き……られたこ…とに…感謝する…わ……」

「お前が天国にいても地獄にいても…」

「今まで…俺の…友達で…いてくれ…て…ありが…とう…な………」

「この世のどこかにいたら助けてやる!……」

「……じゃあな……」

───────

「……絶対助けてやる!」


俺はやっと、ソウの最後の言葉だけ聞くことができた。

死ぬ人間を助けると言っている。バカバカしい話だ。

そうとわかっていながらも、俺は人生の最後にこう言った。


「……約束だぞ…」

───────

ハヤトは笑顔のまま14歳という年で人生を終えた。

笑顔でいたのはソウを悲しませないためだろう。

親はどんな反応をするのか

──

ソウはこれからどうするのか

───

学校のみんなはどんな反応をするのか

────

今日の…晩御飯は…なんだったのか………

_____

気がついた時には、俺は宙を舞っていた。自分が住んでいた町を上から見下ろしていた。

意外と大きい町だったんだなとか思っていた。


気づいた時には、泣いていた。


死にたくない…!死にたくない…!


14歳の子供が、死と向き合うということは難しかった。

流れ出る涙を拭き取るかのように上から光が差し込んでくる。

その光の中から人が現れた。閻魔様なのか、天使なのか、神様なのか、これから自分がどうなるのかはここで決まるのかとか思っていた。

白いヒラヒラ水着のような服の黄色髪の女性が現れた。その女性はこう言った。


「私は神。あなたのこれからの道を決める者です」

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