魔法少女のための安全試験

雨 白紫(あめ しろむらさき)

流れ星の魔法少女

1 わたし、鈴前 楽々。よろしくね、俵さん!

 魔法まほう少女しょうじょ存在そんざいみんなっているよね。

 漫画まんがやアニメみたいに、「皆にはないしょの存在」ではいもん。

 だって、小学校しょうがっこうには「怪獣かいじゅう委員会いいんかい」があるから。



 わたしがかよっている羽鶴はねづる市立しりつ角花つのはな小学校にも、怪獣委員会がある。

 どこからかやってちゃう怪獣をたおすには、怪獣委員の魔法少女が魔法の道具どうぐって、頑張がんばらなくちゃいけない。


 怪獣委員会は四年よねん年・ろくせいがなれる。

 学級がっきゅう委員や図書としょ委委員、放送ほうそう委員みたいに、立候補りっこうほ推薦すいせん投票とうひょうめない。

いち学級に一人ひとりあるいは二人ふたり」なんて決まりも無い。

 この委員会は「国際こくさい社会しゃかいへの奉仕ほうし精神せいしん」が大切たいせつだから、任意にんい加入かにゅう

 四月しがつじゅう月が入会づき

 わたしの場合ばあい、五月に「やっぱりやりたいなー」って持ちになっても、はいらせてもらえなかった。

 十月までたなくちゃいけなかったから、ある程度ていど人数にんずうになると、られちゃうとあせった焦った。

 でも、十月から怪獣委員会に入ったわたしにも、魔法の道具があたえられた。

 本当ほんとうにホッとしたし、の焦りがやって来た。

 だって、ほかの委員と協力きょうりょく来るなんて自信じしん、無かったもん。

 ひたすら、ドキドキしてた。



 委員会の活動かつどうは、委員同士どうしが協力して、校区内くない出現しゅつげんする怪獣を倒す。

 委員の任最低さいてい半年はんとし最高さいこう三年さんねん

 半年かんだけのチャレンジのもいるし。

 四年生の四月から入って六年生の三月まで、三年間やりつづける子もいるんだって。


 じゃじゃーん。

 算数さんすうのノートに定規じょうぎ使つかって落書らくがききしてみたら、意外いがい上手うまけた。

 このながぼしのついたつえがわたしの魔法の道具。

 おおきなお星様ほしさまと、みっつの流れ星特有とくゆうっぽ。

 王道おうどうの杖タイプ以外いがいを使っている子がおおいから、ちょっとお子様ぎたと反省はんせいしても、もうおそい。


 最しょ、魔法の道具の「みなもと」をもらったときは緊張きんちょうした。

 はこけるしゅん間、わたしがしい「魔法道具」がかたちづくられるってわれて。

 絶対ぜったい男子だんしみたいにウンチとか、想像そうぞうしないようにした。


 杖として使わないあいだは、流れ星のヘアクリップにいている。

 こうして、算数の授業じゅぎょうちゅうも、前髪まえがみめているクリップのお星様の部分ぶぶんさわってしまう。


「こらー、鈴前すずまえ 楽々らら

 よそしなーい」

先生せんせい、ごめんなさい……」


 キンコンカンコーン、キンコンカンコーン。

 三十さんじゅっセンチメートルの定規じょうぎを使った図形ずけい作図さくず作業さぎょうわったあたりで、チャイムがった。

 算数の授業はこれでおしまい。

 つくえうえしたままの教科書きょうかしょ、ノート、筆記用ひっきよう具を机のなかれる。

 定規入れは、皆バラバラ。

 定規入れの無い子は、かばんはだかのまましている。

 わたしなんか、いかにも低学ていがく年のおんなの子がぬまるファンシーキャラの「しゃぺろんちゃん」のぬのでおかあさんにつくってもらっちゃった。

 水色みずいろ頭巾ずきんかぶった可愛かわいらしいおんなの子。


 でも、まわりのじょ子はギンガムチェックがら水玉みずたま模様もよう

 あと、クラスで一番いちばん可愛い木坂きさか 詩音しおんさんのは、そら柄の布にピンクのリボンとフリルをデコレーションした力作りきさく


 左斜ひだりななうしろのせきたわらさんのは、布せいじゃない。

 くろい箱。

 そこに、きん箔押はくおしで山菜さんさいのモチーフがついている。

 ワラビじゃ無くて、ゼンマイ


「俵さんの定規入れって、箱なんだね。

 なんか、怪獣委員会わたしたち支給しきゅうされた魔法の道具の箱みたい。

 もう、箱なんかどっかっちゃったけど。

 アハハハハ……」

 くるまぎれにわらったけれど。

 俵さんにはなしかけるタイミングじゃ無かったかも。

 どうしよう……。

「箱のほうが勉強道具に押されて変形へんけいする心配しんぱいが無いとおもったの」と言葉ことばかえしてくれた。

 ハラリと、すこ前側まえがわれたながい髪を右耳みぎみみにかける仕草しぐさ

 く~、銀縁ぎんぶち眼鏡めがねも合わさって、横顔よこがお凛々りりしい。



「わたし、鈴前 楽々。よろしくね、俵さん!」って、きょ年の四月に自己じこ紹介しょうかいしてからじゅっげつった。

 しゅっ席番号順ごうじゅんで席がちかかったのは五月すえまで。

 あれから、席えは四回よんかい

 もう、年度末どまつの三月に入ったから、席替えは無し。

 あるのはらい年度のクラス替え。


 俵さんはだれかの悪口わるぐちを言わないし。

 掃除そうじ当番もサボらないし。

 目立めだたない女の子だけれど、とってもい子。

 そういう子って、先生のお気に入りになるはずなのに。先生とは何となく距離きょりたもっている。

 委員経験けいけんが無しなところも、ちょっと不思議ふしぎ


 俵さんは魔法少女ではないのに、わたしにたいしてとってもやさしい。

 わたしのこと、馬鹿ばかにしないで。

 わたしのはなしいてくれる。

 親友しんゆうともだちでも無いのに。


 しん五年生で、俵さんみたいな子とおなじクラスになれなかったら、ちょっと不安ふあんだな。

 わたしって、自分の言いたいことをハキハキ言う子の子分こぶんにはなれない。弱虫よわむしなのに、弱虫なりのプライドがてられない……。

 俵さん、怪獣委員会に入らないかな。

 入ってしいな。

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