「奇妙な夢」
岩山に囲まれた波打ち際でひとり
海藻を箸で摘んでは食べていました
人が踏んだようなものは避けました
ふと山側を見ますと
父がこちらに振り返り、私を見て微笑み、
電動車のようなものに乗って
ゆっくりと坂を上がって行きました
急用をおもいだしまして
慌てて婦人の家へと向かう途中
母にでくわしますと
「あの人はやめておきなさい。
優しい言葉をかけてはだめよ」
と、また知ったふうな口をききますので
相手にはせず、そのまま通り過ぎました
婦人は留守でしたが
玄関は開いておりましたので、勝手に入りますと
家の中はしんと静まり返っていました
ベーゼンドルファーに座り
ベートーベンの「月光」を弾いていますと
私の肩に婦人が手を置き
後ろからそっと寄り添い
「今日は木曜なのよ」
と優しく囁きました
私は曜日を間違えたことを悟りますと
婦人宅をあとにしました
なにもない田舎道を歩いておりますと
正面から一人の老婆が歩いてきました
老婆は前世、現世、後世の三世世界の馬鹿みたいに大きな石でてきた老婆を、三体も背負っておりました
私の目の前までやってきて立ち止まりますと
白い大きなテントを一瞬で広げて
「興行は年に一回まで」
と、意味のわからないことを叫びながら
私の周りを一周して
物凄い勢いでどこかへ去っていってしまいました
そこからすこし歩きますと
右手の境内では町の若者たちが集まり
雛壇の上で音楽にあわせ
熱心に踊りの稽古をしておりました
辺りが急に暗闇に包まれますと
雛壇の前にステージがあらわれ
七色に輝きだしました
若者たちはきらびやかな衣装を身にまとい
スポットライトを浴び、汗を飛散させ、
無我夢中で踊っています
音楽が止むと踊りも終わり
一人際立っていた雛壇のはじにいた若い女が
代表に選ばれたらしく
飛び跳ねて喜んでおります
目の前に広がる
何億年もかけてできた鍾乳洞のような
レインボーに輝くステージを
嬉しそうに駆け下りていきました
ふと気がつくと
親友の家の前に来ておりました
留守のように見受けられましたが
玄関は開いており
奥の方から物音がしますので
「おじゃまします」と大きな声で云いまして
音がする方へと歩いていきますと
奥の部屋で白いシーツにくるまれたものが
もぞもぞと動き
そこから女の喘ぎ声がきこえてきました
シーツをおもいきり剥ぎ取りますと
親友の嫁が見知らぬ男の上にまたがり
一心不乱に腰を振っておりました
よく見ますと男は死体で
チアノーゼで唇が青黒く変色しております
「なにをしている」
私は親友の嫁を無理矢理引き離しますと
下から睨みつけ
「あなたが私に子供を授けてくれるっていったんじゃない……嘘つき…嘘つき…嘘つき…嘘つき——
私は逃げました
逃げたのはいいのですが
とても広い家なので迷ってしまいました
ふと入った部屋に
ゴミ箱の中で膝を曲げて
うずくまった裸の女が
新しい付け睫毛に付けかえているところでした
かなり以前から
部屋に引きこもってるらしい
親友の妹かとおもいましたが
黒髪を長く伸ばしたその女には
目も鼻も
また口もありませんでした
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