機械人形は動かない

和翔/kazuto

プロローグ

 私はドアを開き、そして絶望した。


「……?」


 道路のど真ん中。灰の空が太陽を遮り、風が空回りしたように私の背中を押す。

 そして信じがたい現実が氷柱の如く私の眼に突き刺さる。


「……ま、き?」


 間違いない。なにせ半年も一緒にいたんだ。間違いない。だがしかし、今は間違いだと言ってくれないか。

 茶色の髪が長く触れたら壊れそうな華奢な体つき、通りかかるすべての人の目を盗むようなロリータ服に包まれた少女が、道の真ん中で倒れていた。


「ど、どうした、喋れないのか……? そうだな、エネルギーが無くて……しゃべることすら……」


 近くに駆け寄り声をかける。しかし、一向に返事をしない。焦点はただ一点を見つめているのに、その一点がどこにあるかが分からない。小さく開いた口元、まるで健康だと言い張るような薄いピンクの唇からはまるで生気を感じられない。


「ま、まってろ……」


 マキを家の玄関まで運ぶと私は『ネジ』を持ってきた。そして自分の胴ほどある大きなネジを急いでその背中に刺そうとする。


「……」


 しかし、入らない。

 いくら刺そうと背中にネジを押し当ててもいつものようにはまることがない。


「うそだろ? うそだ」


 いつもなら服の上からでもカチッと音が鳴りそのあとに五回ねじを回すことによってマキにエネルギーを与えられた。

 私は我を忘れマキの服をたくし上げる。するとそこにはネジが上手くはまるであろう穴を見つけた。そしてその上に二つ薄くへこんだ穴があった。

 気分が悪い。昨日まで一緒に信用しあった中の人間の服を、気を失っているうちに脱がせようとするなんて。

 後で謝ろう、彼女は許してくれるだろう。そう思ってネジを回そうとする。


「……」


 私はネジを回した。ネジは回った。スムーズに回った。そして私は理解してしまった。


「ま、き」


 彼女は死んでしまったのだと。

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