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 3月15日、卒業式まであと3日だ。徐々に準備が進んでいる。その様子を、彼らはどんな思いで見つめているんだろう。松島が考えるのは、今年の卒業生だけではない。彼らの事も考えている。

 職員室で、松島は考えていた。なかなか言えない。もう死んだ幽霊の卒業式なんて、認めてもらえないだろう。だけど、聞かなければ。


「どうしたんだい?」


 松島は顔を上げた。そこには野原がいる。野原は、松島が何かに悩んでいるように見えた。卒業式の事だろうか?


「2010年度の卒業生の幽霊が現れたんだ」

「えっ、本当?」


 野原は驚いた。あの、東日本大震災の大津波でみんな亡くなったという、卒業生の幽霊が現れたとは。あれからずっとここにいたんだろうか?


「うん。で、その子たち、卒業式を迎えられなかったから、卒業式を開いてほしいって言うんだ」

「そうなんだ。迎えたかったけど、迎えられなかったもんね」


 野原は思った。野原には、彼らの気持ちがよくわかる。彼らは卒業式を目前に亡くなってしまった。だから、卒業式を迎えたいんだろうな。だからずっと、ここにいるんだろうか? それとも、その後の日々を生きていく小学生を見守ってきたんだろうか?


「つらかっただろうね」

「うん」


 松島は、彼らのために、何とかしたいと思っていた。だけど、本当にできるんだろうか?


「あの子のために、何かできないかなと思って」

「うーん・・・。幽霊のために卒業式って・・・」


 野原は戸惑った。幽霊のために卒業式って、みんな怖がらないだろうか? もう死んでいるのに、本当にやっていいんだろうか?


「難しい?」

「うーん、どうしよう・・・。もう死んじゃったんだし」


 野原は難しいと思っている。だが、松島は諦めようとしない。この子のためなら、何でもやる。私は、子供たちの味方なんだ。


「それでも、あの子たちが待っているんだよ」

「それはそうだけど、もう死んでるし」


 それでも野原は否定的だ。いつも通りに、今年度の卒業生の卒業式だけをすればいい。


「それでもあの子のために!」


 だが、松島は諦めようとしない。この子のためなら、何だってしたい。野原は松島の表情を見て、戸惑っている。


「もういいから、明日、しっかり話してよ」

「うん・・・」


 野原は職員室を去っていった。松島は野原が出ていったドアをじっと見ている。


 松島は職員室を後にして、体育館に向かった。卒業式ができるかどうか、まだわからない。彼らにどう顔向けしようか?


 松島は体育館に入った。そこには彼らがいる。


「どうだった?」


 石橋は松島を待っていた。石橋は期待していた。ひょっとして、卒業式をできるんじゃないだろうか?


「もう死んでるから、どうだろうと言ってた」


 まだ決まらないとわかった時、石橋は呆然となった。だけど、まだ希望はある。中止ではなく、まだ検討中だ。希望はある。


「そうか。でも、迎えたいな。迎えられたら、天国に行っても悔いはないから」

「そうなんだ」


 みんな、悲しそうだ。早く天国に行って、新しく生まれ変わりたいのに。いつまでも幽霊として子供たちを見ているんじゃなくて、実際に生まれ変わって子供たちと遊びたい。


「早く悔いなく天国に行きたいよ」

「うーん・・・」


 松島は戸惑った。本当にできるんだろうか? もしできなければ、彼らはこのままだ。どうにかしたいな。


「松島先生、頑張って!」


 その声で、松島は顔を上げた。私は子供たちの味方だ。だから、子供たちのために頑張らなければならない。


「わかった! 私は生徒の味方だから、何とかするわ!」


 それを聞いて、彼らは喜んだ。きっと、松島が私たちのために頑張ってくれるだろう。


「ありがとう! 頑張ってね!」

「うん! まかせなさい!」


 と、石橋は思った。真剣な話をしたんだから、話題を変えよう。


「ねぇ」

「どうしたの?」


 松島は石橋を見た。何か話したい事があるんだろうか?


「あれからの話をしようよ!」

「どうしたの?」


 松島は驚いた。これからの話って、東日本大震災の後の日本の話だろうか?


「誰かと語り合いたいなと思って」

「いいよ」


 石橋は、生前によく通った日本製紙クリネックススタジアム宮城、現在の楽天モバイルパーク宮城を思い出した。石橋も、楽天イーグルスの中では田中将大が好きで、彼のユニフォームのレプリカを持っていた。


「楽天イーグルス、日本一になったんだね」


 石橋は、楽天イーグルスが日本一になった日の事を思い出した。小雨が降る日本製紙クリネックススタジアム宮城で日本一になった。あれから楽天イーグルスは日本一どころか、リーグ優勝すらない。だけど、あの日の興奮は今でも、その当時のファンの心の中に残っているだろう。


「うん。あの時は感動したわ。だって、マー君が締めたんだもん。あの時、球場が一体になって、『あとひとつ』を合唱した時には感動的だったなー。スポーツって、こんなに感動するもんなんだって、マー君の9回の登板を見て、思ったんだ。まるで東北の想いが球場に集まったようで」


 次第に、一部の子供たちが、『あとひとつ』を鼻歌で歌い出した。今思い出しても、涙が出てくる瞬間だ。まるで球場だけではなく、東北の人々の想いが一つになったようで、感動的だったな。これが、野球の底力だろうか?


「僕たち、みんなには見えていなかったけど、生で見てたんだ! マジで泣きそうになったよ!」

「あの試合を最後に、マー君はアメリカに行っちゃったんだね」


 石橋は思った。田中将大は来年、メジャーリーグに行くだろう。だから、ここまで自分を育ててくれた楽天イーグルスを日本一にしてから、メジャーリーグに行きたかったんだろうか?


「うん。だけど、また帰ってきてくれた。やっぱり、この東北が好きなのかな?」

「そうかもしれない」


 東日本大震災から10年を迎える2021年、田中将大は戻ってきた。そして今年、日米通算200勝に迫ろうとしている。


「東日本大震災の起こった年のホーム開幕戦、嶋基弘選手が言った、『絶対に見せましょう、東北の底力を』も印象的だった!」


 次に石橋は、2011年のホーム開幕戦を思い出した。東日本大震災の影響で、4月29日になってしまった。そんな中で、当時の選手会長だった嶋基弘が言った、被災者へのメッセージが印象的だった。これも感動的で、ジーンとくる。


「私もあれは感動したわ!」

「絶対に震災に負けない、絶対に立ち直るんだって」


 松島はあのメッセージを生で見ていた。この人たちが頑張っているんだから、復興に向かって、頑張らなければ。


「私、思ってるの。人間って、災害が起きても、力強く立ち上がり、再び歩きだし、その度に強さを増していくのかなって」

「そうかもしれない」


 彼らは、松島の言っている言葉に感銘を受けた。どんな災害が起きても、人々はその中でまた立ち上がってきた。だから、今の日本はあるのかな?


「阪神・淡路大震災が起きた時も、みんなが支援してくれたおかげで、神戸は復興した。ブルーウェーブは日本一まで上り詰めた」

「ブルーウェーブ?」


 石橋は首をかしげた。こんな球団があったのかな?


「オリックスバファローズの前身の1つだよ。2004年の球界再編で合併になったけどね」


 オリックスバファローズは知っている。2021年になって、突然強くなり、リーグ優勝や日本一を繰り返しているチームだ。野球に興味を持ち始めた頃は、とても弱かったけど。


「そんな球団があったんだ」

「イチローって、知ってる?」


 石橋はその言葉に反応した。イチローはメジャーでも有名な日本人メジャーリーガーで、メジャー1シーズン最多安打を記録したり、10年連続で200本安打を達成したりで、メジャーにも名を残すプロ野球選手だ。まさか、そんなイチローがいた球団だとは。


「うん。有名な日本人メジャーリーガーでしょ?」

「日本ではブルーウェーブで活躍してたんだ」

「そうなんだ」


 イチローは1991年のドラフト4位でオリックスブルーウェーブに入団し、94年に130試合制では唯一の200本安打を記録、最終的に210本のヒットを放った。だが、そんな時期を彼らは知らない。


「話がそれたけど、震災を乗り越えて日本一になった楽天イーグルスの姿を見ると、ブルーウェーブが日本一になった時の事を思い出したんだ」


 その話を聞いて、楽天イーグルスが日本一になった出来事って、オリックスブルーウェーブが日本一になった時に似ている。震災を乗り越えて日本一になるって、ドラマチックだな。


「言われてみればそうだね。震災を乗り越えて、日本一になるって、すごいよね」

「私、思うんだ。人間の力、スポーツの力って、ここにあるのかなって」

「ふーん」


 彼らはその話をじっと聞いている。スポーツは、人々を感動させる力がある。そして、その力が人々を強くして、再び立ち上がらせるのかな?

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