第31話 槍の可能性

 アガルダの町を発っておおよそ三日、道中でオレは剣と槍をバランスよく使って戦っていた。

 槍は使ってみると剣とは違った使い勝手で面白い。

 このリーチの長さがあれば近接系の魔物なら寄せ付けずに仕留められる。


 おかげで初日の時点で【槍(長物好き)】から【槍(見習い)】にスキル進化した。

 スキル進化がつい楽しくて色々使ってみたくなる。

 まだ見習いだから大したことはできないけど十分だ。


 使える技は二連突き、二連斬りの槍バージョンって感じだけど相手によってはこっちのほうが有効だ。

 例えば硬い皮膚を持つ魔物なんかは剣で斬るよりも槍で体の奥まで貫いたほうがいい。

 突くというコンセプト上、剣よりも一ヶ所に対するダメージがかなり高かった。


「ぴぃーーー!」

「クレントの町が見えたか?」

「ぴぃぴぴっ!」

「なんか慌てているな?」


 地図を見る限り方角はクレントの町だ。

 マルルーがオレ達を催促するようにして飛んでいく。

 走って追いかけると、そこでは人間の集団が魔物の群れに襲われていた。


 あれは隊商か?

 商人らしき人達が冒険者に守られるようにして怯えている。

 冒険者は全部で五人だけど魔物は十体、多勢に無勢だな。


 しかもあれはオレが昨日あたり倒したオークだ。

 あいつ、やたら皮膚が固くて剣じゃ倒しにくいんだよな。

 なんて考えている場合じゃない。


「おーい! 加勢するか?」

「冒険者!? 助かったぁ!」


 女の子が一人いるな。

 ポニーテールで全体的にぼさっとした赤髪の子で武器は持っていない。

 見たところ、まともに戦えているのはあの子だけだ。


 拳でオークの顎を粉砕した後、腹に蹴りを入れてぶっ飛ばしている。

 かなりの威力だったのか、オークはそのまま動かない。


「強いな……」

(む……)


 リコが突然オークに向けて魔法をぶっ放した。

 一匹の頭部を貫いて、これも凄まじい威力だ。

 リコに習ってオレもがんばろう。


「な、なんだ!?」

「魔道士か!」


 冒険者達がリコの魔法に目を奪われた。

 オレは魔物と冒険者達の間に割って入り、オークに向けて武器を構えた。


「加勢するぞ。えーと……名前は?」

「レイリンだよ。あなた達は? 」

「オレがシンマでこっちがリコだ」


 他の冒険者の武器は剣が二人、斧が一人、弓が一人。

 バランスは良さそうだけどよりによって相手がオークじゃな。

 といってもオレも先日初めて戦ったから偉そうなことは言えないけどさ。 


「さぁこいよ、豚ども。オレはどっちかというと鳥串派だけどな」

「フゴォッ!」


名前:オーク

HP :76

MP :0

力   :64

きようさ:35

体力 :71

素早さ :24

魔力 :3

スキル:【振り回す】


 オレの挑発でオーク達が一斉に睨んできた。

 結論から言うと【槍(見習い)】だけじゃこいつを討伐するのはちょっと厳しい。

 これに加えてオレは【観察】でこいつらの急所を発見できたおかげで勝つことができた。


 オレはオークの一体に狙いを定めて二連突きを放った。

 狙うはオークのあばらだ。

 こいつは皮膚に加えて骨も異常なまでに硬い。

 あの巨体を支えている骨なだけはある。


「ブゴァッ!」


 オークの一匹のあばらの隙間を槍が貫通した。

 心臓を一撃で貫かれたオークが仰向けに倒れる。


「す、すごっ!?」

「幸いこいつらは素早さが低い。動きをよく見て、急所を突けばなんてことない」

「私も負けてられないなぁ!」


 そう感心する女の子は素手でオークを倒すという離れ業をやってのけているけどな。

 素手で戦うという選択肢はなかった。

 【パンチ】と【キック】も放置したままだし、もし機会があれば鍛えてもいいかな。


 リコが氷柱でオークを攻撃、オレは引き続き急所狙いで攻めた。

 氷柱の威力は凄まじくて、急所とか関係なくオークを貫いてしまう。

 まとめて二匹を仕留めた手腕に冒険者や商人達がただひたすら見とれていた。


「あの子、何者だ?」

「デタラメな威力だ……前に護衛してもらった二級冒険者の魔道士より強いかもしれん……」

「あっちの少年もかなり戦い馴れているな。あのくらいの強さなら三級か?」


 いいえ、商人様達。四級になったばかりです。

 リコの魔法に対する評価が二級以上か。オレとしては魔力だけなら二級どころじゃない気がしている。

 オレとザイガンさんとの模擬戦で見せた魔力をフルに引き出すことができれば一級に届くんじゃないか?


 本領を発揮できないのはリコの中で何かが足りないのかもしれない。

 相手が人間なら無意識のうちに手加減してしまうみたいだし、おそらく根が優しいんだろう。

 この辺をクリアできればリコはきっと覚醒する。と、オレの勝手な想像だけど。


「フゴォォーーー!」

(きもちわるい……)


 それにしてもアレだな。

 オーク達が涎を垂らしながらリコに向かっていく様はなんとも気分がよくない。

 確実に気のせいだろうけどオーク達がリコに、その。こういう想像はやめよう。


「この豚野郎ッ! やらしいんだよ!」

「フゴォォッ……」


 オレはより気合いを入れてオークを槍で貫いた。

 残ったオーク達が逆上して武器を振り回し始める。

 この基本も何もない攻撃だけど、これが意外と面倒だ。


 こいつら、味方の被害も考えずにただひたすら暴れるからな。

 某RPGでいう皆殺しという技を思い出す。

 個体の強さはゴブリンより上だけど、知能はゴブリンやキラーウルフのほうが上かもしれない。


「とあぁぁッ!」


 レイリンがオークに連蹴りを浴びせて圧倒していた。

 レイリンだけずば抜けた強さだな。

 ただ唯一まともに戦えているのがレイリンだけだから加勢しなかったら危なかっただろう。


 オレのほうはというと、ただ突くだけじゃない。

 リーチを活かして槍を振ってオークの目を斬りつけた。

 視界を奪いつつ、別のオークには足を突き刺す。

 いくら骨が固いといってもあの体重だ。足腰にはかなり負担がかかっている。


 オレの槍による一撃でオークが膝を壊して倒れてしまう。

 容赦なく槍をオークの目に突き刺して止めを刺した。

 オレが目を斬ったオークにはリコが氷柱を打ち込む。

 腹を貫通した氷柱が血で滴り、最後のオークが巨体を倒した。


≪【武器修練度アップ】を習得しました≫

≪【槍(みならい)】が【槍(ランサー)】にスキル進化しました≫


 おぉ、マジか。

 【ドロップ率アップ】に続いて【武器修練度アップ】はめちゃくちゃ嬉しい。

 たぶん【武器修練度アップ】習得を覚えた影響で【槍(ランサー)】もスキル進化したんだろうな。

 ということはこの調子で他の武器もスキル進化を狙える。


「これで全部か。お前ら、大丈夫か?」

「いやー君達、すこぶる強いねぇ」

「たまたま色々と噛み合っただけさ。それよりこれは隊商の護衛依頼か?」

「そう、この先のクレントの町まで護衛するつもりだったんだけどね。かっこ悪いところ見られちゃったなぁ」


 レイリンがため息をついて肩を落とす。

 クレントの町まで護衛とはなかなか好都合だ。

 まぁ方角的にそうなんじゃないかとは思っていたけど。

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