異世界でのんびり進化して旅をする

ラチム

第1話 転生

「あなたは神になれます」


 目が覚めるとオレは知らない女の前にいた。

 女が指を向けてきたその瞬間、オレの頭の中に様々な記憶がよみがえる。

 つまり自分の身に何が起こったのか一瞬で理解できた。

 なんだ、これ? 神の力ってやつか?

 

「理解できましたね?」

「あぁ、オレは死んだのか」


 天上(あまがみ)シンマ、享年十六歳。死因は病死。

 若くして脳の病気が発祥して意識不明の後、死んだらしい。

 自分でも驚くほどショックを受けていなかった。

 むしろこれでよかったとさえ思える。

 どうせ何もかもが中途半端な人生だったからな。


「では次、あなたには異世界に転生していただきます。そこであなたの中に眠っているスキルを磨いてください」

「オレにできるのか?」

「あなたが前世でどんな人生を送ってきたかわかっています。大丈夫です。さっきも言った通り、あなたのスキルは神に比肩します」

「それはすごいな」


 オレが覇気のない反応をすると女神は意外そうな顔をした。

 オレにどんな反応を期待していたんだ?


「えらく冷めてますね。あなたにはそのスキルで神になってもらいたいのです」

「それであなたにどんなメリットがあるのか、一応聞いておきたい」

「私の代わりに異世界の神になっていただきます。要するに私の後継者ですね」


 女神は笑顔を崩さずキッパリと答える。

 普通の神経していたら神になんてなりたいと思うだろうか?


「なるほど。いいよ」

「え? いいんですか?」

「どうせ拒否権なんかないんだろう?」


 女神はニッコリと笑顔で肯定した。

 この人が本当に神なら逆らったところで無駄だ。

 どうせ一度は終わった人生だからな。神にでも何でもなってやるさ。 


「もっとこう『スキルってなんだ?』『神だと? ふざけるな!』みたいに騒がないんですか?」

「聞かなくてもなんとなくわかる。異能力みたいなものだろう?」

「はい、はいはい。そうなんです。ただしあなたのスキルはものすごく大器晩成なスキルなので、神に至るには時間がかかります」

「どんなスキルなんだ?」

「スキル進化。あなたが持つあらゆるスキルが進化します」


 スキル進化。それを聞いてオレの中で何かが反応した。

 もうどうにでもなれと思っていたのに、オレは何を期待している?

 こんな自分でも成長できるとでも思ってしまったのか?


 そもそもオレのスキルってなんだ?

 好きだった女の子に振られた挙句、陰で笑われていた上に進学高への受験に失敗した半端野郎のオレにそんなものがあるのか?


「口で説明するより体験してもらったほうがいいですね」

「今から異世界に転生するのか?」

「はい、年齢は今と同じ十六歳で必要なものを持たせてあげます。あ、顔はちゃんとかわいくイケメンにしておきますからね」

「新たな母親から生まれるわけじゃないのか……ちょっとイメージと違うな」

「あ、もしかしてそっちのほうがいいですか?」


 オレは無言で首を左右に振った。

 転生のタイプが決められるのかよ。

 まぁいいか。それよりスキル進化だ。

 これを聞いてオレはどうにもワクワクが止まらなかった。


「異世界に転生したら、ひとまずステータスを見てくださいね」


 それが女神から聞いた最後の言葉だった。


                * * *


 俺は森の中に立っていた。

 新鮮な空気を吸い込みながら、自分の姿を確認する。

 服装は見る限りではファンタジー風の旅人服だ。鏡がないから顔は確認できない。

 後は肩から下げるタイプのカバンと厚いブーツ、動くのに不便はないな。


(あの女神、必要なものを持たせたとか言ってるが……)


≪スキル【呼吸】【聞く】【見る】を習得した!≫


 突然、何かが聞こえた。

 思わず周囲を見渡してしまったが、これはオレの頭の中で響いている。

 もしかしてこれがスキル進化か?

 進化というより芽生えたといったほうがしっくりくるのだけど。

 そういえば女神の奴、ステータスを見てくださいとか言っていたな。どれ。


「ステータス」


名前  :天上 シンマ

年齢  :16

性別  :男

HP  :20

MP  :8

力   :8

器用さ :6

体力 :7

素早さ :7

魔力 :4

スキル:【スキル進化】【呼吸】【聞く】【見る】


 なるほど、これがオレの強さか。

 こうして数値化されて見せつけられると、少しくるものがあるな。

 勉強も運動もすべてが半端なオレだから、おそらく高い数値とは言えないだろう。

 問題はこのスキル進化だ。まずはこれについて突き詰める必要があるな。


 この森を探索したいところだ。

 ひとまずカバンの中を調べたが何も入ってなかった。

 あの女神、必要なものを持たせるとか言っておいてひどいな。

 まぁ悪態をついてもしょうがない。まずは人がいる場所を目指したい。


≪スキル【歩行】を習得した!≫


(……もしかしてバカにされてるのか?)


 歩き始めた時、また何か覚えたみたいだな。

 これが女神が言うところの神に比肩するスキルか?

 期待すべきじゃないのはわかっているんだけどさ。

 今のところ何がすごいのかわからん。いや、真面目に考えよう。


 スキル進化、ね。これは単純に考えて、オレのスキルが進化したということだろう。

 呼吸や聞くってのは一見してスキルと呼ぶほどじゃない。

 しかしスキルというものを広義の意味で考えるとどうだ?


 呼吸や聞くという活動もスキルと考えられなくもない。

 呼吸一つとっても、世の中には呼吸法というものがあったな。

 呼吸を変えるだけで体への影響が変わると聞いたことがある。


 オレが当たり前のようにできるものはすべてスキルで、それがスキル進化によって進化したとしたら?

 オレは試しに呼吸を深く意識してみた。

 心なしか少し楽に呼吸ができるような気がした。

 気のせいかもしれないけど。


 試しに歩いてみると足取りが軽い。

 歩くのがこんなにも楽だとは思わなかったな。

 こっちはきっちりわかりやすい。


 次に見る、これも目がよくなった気がする。

 別に目が悪いわけじゃないけど、木の枝にとまっている鳥の羽毛までハッキリと見えた。


 次に聞く、これも鮮明だ。

 風、葉がこすれる音、何かの生物の鳴き声。

 様々な音がハッキリと聞き分けられる。


 どれも劇的な進化というわけじゃない。

 だけど更に進化するとしたら?


 よし、自信はついた。だが依然として森を歩くには不足があるな。

 食べ物はもちろん武器なんかも必要だろう。

 病院もないこんなところで怪我なんかすれば大変だ。


 オレは慎重に歩いた。

 【見る】【聞く】【歩行】のおかげで前世よりも生存率は上がっているはずだ。

 そう思い込んで安心した時、遠くに人影が見えた。


(こんなところに人間?)


 オレが警戒した時、人影がこちらに気づいた。

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