すれ違い、恋
黒淵とうや
プロローグ
「ごめんなさい」
放課後の教室で彼女ーーー春風桜は彼に告白の返事をした。
「......どうして?」
彼は聞く。あくまで冷静に、自分の心の奥底から湧いてくるどうしようもない渦を抑えながら。
「......どうしてだと思う?」
桜は微笑をうかべながら、彼の目を見て聞き返す。
「分からない」
「本当に?」
桜は彼の目をしっかりと見ながら言う。
本当はわかっているよね?
そう訴えかけるように。
「分からない」
彼はあくまで知らないとしらを切ることにした。認めるわけにはいかなかった。
「......そっか」
桜はまるで哀れな人を見るような瞳で彼を見る。彼はその目線に耐えられず目を逸らす。
しばらくの間静寂がこの空間を包み込む。
何分か経った後、この静寂を打ち破ったのは桜の方だった。
「どうして嘘ついたの?」
それは彼にとっては革新を突く一言だ。思わず心の中の渦が溢れそうになるのを必死に抑える。
「......好きだったから」
彼は答える、桜の目を見ながら。桜はそんな彼に対し未だ哀れな人に向ける瞳を向け続ける。
「私に言ったこと全部嘘だったんだよね」
「それは......」
「わかってるから」
桜は彼に何も言わせない。全部知った上でここに望んでいるからだ。
彼は頭を回転させながら次に言うべき言葉をひねり出そうとする。けれど人間、追い込まれればどういう言葉を発せればいいか分からなくなるものだ。
ただ口をパクパクとさせている事しかできない。
そんな彼に向かって桜はとどめを放つことにした。
「今まで私に話したことは全部嘘だったんだよね?」
「......いゃ、」
「楽しかった?私の一喜一憂しているところみて」
「私のことを一番理解してるって」
「私には嘘はつかないって!」
「あなたは私に嘘しか言ってないじゃない!」
桜は彼を睨みつけた。その眼は友達とか、ましては好きな人に対してみせる眼ではない。
彼は眼を伏せる。何も言えなかった。自分のしでかしたことに今更気付いたから。
彼は唇を噛み締める。こんなつもりじゃなかった。ただ君に見てもらいたかった。君が好きだったから......そんな言葉を飲み込むために。
彼が顔をあげたとき、桜はもういなかった。周りはとても静かで、とても孤独な気分だ。
何を間違えたのか、何故こんなことになってしまったのか。
......そんなこと分かってる。全て自分のせいだ。
彼はただ呆然と、外にポツンと生えている木の枝を見ながらこれからの行く末を感じていた。
ただただひとりぼっちの教室は寒かった。
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