第250話:すっぴんパジャマ姿をさらしましょう



 二日酔いで会社を休んだ、母さん。


 お昼近く、少し復活した頃に。


 突然の、来訪者。


 母さんの、会社の人。


 母さんの、想い人。


 母さんが、告白プロポーズまでした、人。


 ホンダさん。


 初老の、男性。


 まあ。


 母さんが、求婚プロポーズしたんだし。


 おそらく、女性では、無いだろし、悪い人でもない、よね。


 しかし、年齢が……一応、母さんから話も聞いてたけど。


 ずいぶんと、めされているご様子。


 たしか、うちのおじいちゃん、おばあちゃんと、同じ世代、だとか?


 どひー。


 そんな、ホンダさんと、インターホン越しの会話をしている母さんの、うしろ。


 そろりと近寄って、聞き耳を立てる、ユイナおねえちゃん。


 あたしは、ソファに戻って。


 事の推移を、見守る事にしましょう。



 とは、言え。


 同じリビングなので、インターフォン越しのホンダさんの声は聞こえずとも。


 母さんやおねえちゃんの声は、漏れ聞こえてきちゃう。


「はい、そうなんです、夕べちょっとお酒、飲みすぎちゃって。ええ、はい」


 あはは。


 母さん、素直に体調不良の原因、話しちゃってる、ね。


 下手にごまかしたり、ウソがつけない性格。


 うん。


 あたしにも、しっかりと伝授されてる、かな?


 たぶん。


「え? バイク? あ、そうです、妹なんです。昨日から妹が訊ねて来てるんですよ、それで一緒にお酒をですね……」


 インターホンに向かって、話している母さん。


 後ろで、おねえちゃんが、やき、もき。


 そして、ついに。


 おねえちゃんが、インターホンの保留ボタンを、押して。


「あーもう、まどろっこしいっ」

「ちょっ! 何するのよ、ユイナっ!」


「せっかく来てくれてるんだから、インターホン越しじゃなくて、あがってもらってゆっくり話せばいいでしょぉが」


「えー、でも、わたしこんな格好だし……」


 そりゃ、ぼさ髪パジャマのすっぴん状態。


 うん。


 想い人でなくても、晒したくない姿、だよねぇ。


「甘いわ、逆に考えるのよ。普段見せない素の状態をさらして、あなたの事を信頼していますって、アピールするのよ。絶好のチャンスじゃない。それに、だからって幻滅するような男ならこっちから願い下げよ」


 おねえちゃん……。


 すごく前向き、ポジティブな考え方、なんだろうけど。


 これ、やっぱり、おねえちゃんを止めた方がいいかな……。


 一応、あたしも、ふたりの近くまで、移動して、待機。


「でもぉ……」

「よしっ」


「あっ」


 あぁあ。


 また勝手に通話ボタンを、押して。


「すみません、せっかくですから、お上がり下さい。今、玄関あけます、ね」


 って。


 ユイナおねえちゃんが、完全に、割り込み。


『は? はぁ……』


 ほらぁ。


 ホンダさんも、いきなり母さんと違う女性の声に、戸惑ってますやん。


 おねえちゃんは、さらにインターホンの通話終了のボタンを押して。


「ほら、行っておいで、ほら、ほら」


 母さんの背を、押して。


 玄関へと、向かわせる。


 あぁあ。


 もぉ、おねえちゃん……。


 仕方ない。


 あたしのでいいから、せめてカーディガンくらいは、羽織らせてあげよう。


 と、言う事で、ささっと自室に戻って、ウールのカーディガンを持って。


 まだ、玄関手前ですったもんだしている二人に。


「ほら、母さん、これ、羽織って。ちょっとはマシでしょ」


「あ・あ・あ・ありがとう、真綾まあや


 あぁ、でも、これで。


 あたしも、母さんの背中を、押したことに、なるのかなぁ。


 てへ。


 まぁ、いっか。


 そして。


 玄関の扉を、開ける、母さん。


 がちゃっ。




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