第249話:思いがけず想い人来たりて




 二日酔いの母さんとおねえちゃん。


 お昼近くまで寝てらっしゃって。


 そこそこ良くはなってるみたいなんで、介抱って程でもないけど。


 リビングで三人、雑談などしつつ、くつろいで、いたらば。


『ぴんぽん、ぴんぽーん』


 来客?


「誰だろう? 母さん、何か通販とかで宅配頼んでる?」


「何も頼んでないわよ」


 ふみゅ。


 とりあえず、出てみよう。


 リビングの壁にかけられた、インターホンの受話機。


 モニター付きで、外の様子を見ながら通話できるので。


 ぽちっと、通話ボタンを押すと。


 外の様子がモニターに表示されて。


 帽子を被った、初老の男性が、映し出される。


「はい、どちらさま?」


 む。


 何やら、見覚えが、あるような、無いような?


『あ、ホンダです。園田さんの勤め先の、えと、同僚の』


 あー。


 と、言うか。


 あーーっ!?


 母さんの、想い人じゃないっ!?


 なんで?


「あ、と、えと、母がお世話になっております」


 うぅ、こういうの、慣れないなぁ。


 母さんに替わってもらわないと、対応難しいかも。


『あ、どうもお世話様です。園ちゃん……えっと、お母さん、大丈夫、かな? 体調不良でお休みって、具合、どう?』


「えと、かあさ……母は、今、えぇっとぉ……」


 ちら、ちら、と、母さんの方を振り返ってみると。


 うん。


 パジャマ姿で、髪もまだぼさぼさ。


 でも、体調の方は万全ではないにせよ、かなり復活はしてるはず。


 このインターホン、こちら側の映像は、外には表示されないから、母さんに替わっても大丈夫だよね。


「少々、お待ちください。母に替わります、ね」


『あ、はい、よろしく』


 インターホンの保留ボタンを、押して。


 母さんのところまで、戻って。


「母さん、ホンダさんが来られたみたいだけど」


「へ?」


 母さん。


 一瞬、目が、点状態。


 からの。


「なんで本多さんが!?」


 目を丸くして。


「なんで? なんで?」


「知らないわよ。具合どうかって言ってたし、お見舞いに来てくれたんじゃない?」


 推測、だけど。


「なんでわざわざ!?」


「だから、知らないってば。自分で聞いたら?」


 ちょいちょい、と、インターホンの方を指差して。


 母さんに、出るように促す。


「どどど、どうしようなんで? え? え? えぇええ?」


 あぁ、もう。


「ほら、待たせちゃ悪いわよ」


 母さんの手を引いて、ソファから立たせて。


 背中を押して、インターホンの、前へ。


「はい、どうぞ」


 保留ボタン、解除っ!


「あわわ真綾まあやちょっとっ」


『あ、園ちゃん? 大丈夫かい?』


 インターホンの向こうから、そんな声も聞こえたけど。


 母さんの、プライベートな会話を盗み聞きも、アレなんで。


 あわあわしている母さんを置いて。


 ソファに戻る。


「何? どしたん? 誰?」


 おねえちゃんは、ピンと来て無い様子で。


 夕べ、お風呂でホンダさんの事は、聞いてた、筈。


 名前まで話してたかどうかは、不明だけど。


「母さんの会社のひとだよ。お見舞いに来てくれたみたい」


「姉さんの会社の人……って、もしかして、例の人?」


「多分」


「おぃおぃ、おぉおっ、これはっ」


 インターホンから離れた場所とは、言え。


 母さんの声自体は、漏れ聞こえて、来てしまう。


 んが、しかし。


 興味津々、ユイナおねえちゃん。


 そろぉり、そろり、と、抜き足差し足。


 母さんの、元へ。


 後で怒られても、知らない、よ?




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