第238話:七九白、八黒



 三人の入学希望の受験生。


 その面接を、終えて。


 三人が、退出した、後。


 机の配置を元の状態へ戻していると。


「さて」


 教頭先生、お疲れ様、って感じで、今度は校長先生が。


「いったん、私たちは退席しますので、皆さんで意見をまとめてみてください」


「はい、わかりました」


 エリ先生が代表で校長先生に応えると。


「それでは」


 先生方が、会場の教室を出て。


 残った、あたしたち。


 エリ先生と、三先輩。


 いつもの、配置。


 机をテーブルのように並べて。


 そのテーブルをくるりと、囲む形で。


「で」


 一応、と、言うか。


 立場的に?


 エリ先生が、司会進行。


「七と九は問題ないよね」

「八はなぁ……」

「八ねぇ……」


 あ、先輩たちも、苗字の頭の数字で表現してる。


「怪しい匂いしか、しない」

「そうね、七ちゃんと九ちゃんは真綾まあやと同じ香りがする」

 

 え?


 おさげ子先輩っ。


「あ、あたし、そんなに匂います??」


「いや、物理的にじゃなくて、雰囲気? みたいな」


 あぁ。


「八くんは、雰囲気が違うわよね」

「ええ、わたくしもそう思いますわ。先生はどう思われます?」


「んー、わたしも、同意見よ。八木くんは、その、なんて言うか」


 あたし的には、黒だと思うけど。


 決めつけは、よくない、よね。


 って事で。


「グレー、ですか?」


 ちょっと、言葉を濁して。


「ええ、何か違う感じはするわね」


「でも、ちゃんと病院の診断書も出てますよ?」


 そう。


 今回、学校側が指示を出して、用意してもらっている、診断書。


 性同一性障害である事を、診断したもの。


「七ちゃんと九ちゃんはちゃんと女性化の治療までしてるみたいだけど」


「八くんは精神的な診断だけみたいですわね」


「うーん……」


 金髪子先輩が何やら、携帯端末を見ながら。


「この病院、ちょっと調べた方がいいかも」


 ぴこん、ぴこん、と。


 メッセージアプリの通知。


 金髪子先輩が、何やら、アドレスを送ってくれたみたい。


 見てみると。


 八くんの診断書を書いた病院の情報。


 クチコミ。


「うわ、ひど……」

「あまり良い感じのところではなさそうですね……」

「お金を払えば診断書の偽造も厭わず、か……」


 ここまであからさまだと。


「でも証拠が無いと」


 エリ先生の、おっしゃる通り。


 疑わしきは、何とやら、だっけ。


「この場合は、証拠も必要ないと思うな」


 おさげ子先輩の、意見。


「ですね。合否の理由について通知する必要は無いでしょうし」


「真綾ちゃんから見て、どう思う?」


「えっと……」


 ここは、素直に、思った事を。


「正直、八木くんが入学したとして、何か問題を起こしそうな気がします」


「しの女には、ふさわしく無い?」


「はい、そう思います」


「お、これ見て」


 ぴこん、ぴこん。


 またも、金髪子先輩からのメッセージ。


 リンクを開くと。


「え」

「ん? これは」

「おや、まぁ……」


「何? 何? え……」


 それは。


 八木くんの、父親の、情報。


 過去に、やらかした、いわゆる。


 デジタルタトゥ。


「この親ありて、って感じかー」

「これは完全に黒ね」

「息子を使って、またやらかそうとしてるって事?」


 みたいですねー。


 そうと決まった訳ではないけれど。


 八くんの父親。


 過去に、盗撮で捕まってる。


 女子トイレや女子更衣室に忍び込んで、隠しカメラを設置。


 やらかして、ますね……。


 確かに、証拠はないけれど。


 父親が、息子をそそのかして。


 女子校に潜入して、撮ってこい、と。


 そのために、偽の診断書を、用意して。


 うん。


 充分考えられる。


 疑わしきは。


「外した方が、無難、かしら」

「そうね」

「ウチも、アレはなんかいやー」


「そうね。最終的に判断されるのは、校長先生たちでしょうけど。一応、わたしたちの意見としてはそんな感じで」


 と。


 話がまとまったのを。


 まるでどこかで聞いていたかのように。


 コンコン。


 扉がノックされ。


 校長先生が、顔を覗かせる。


「話はまとまったかしら?」 


 いや、ほんと。


 扉の脇で、話聞いてたんじゃありませんか?




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