第237話:専用のお手洗いと更衣室



 まだ続いている、面接。


 東雲女子高等学校、新入生試験の、最後。


 トランスジェンダー女子三名の、特別面接。



 その中のひとり、九重ここのえゆうちゃんから。


 下着の色の定義について、ものすごい爆弾を頂きましたが。


 ひと区切りしたところで。

 

 姿勢も良く、しゅぱっ、と、挙手したのは。


「はい、七種さいくささん、どうぞ」


「はい、ありがとうございます。わたくしも制服についての質問になる……なりますが」


 九ちゃんのような、流れるようなお嬢様言葉とは、裏腹に。


 すこしぎこちない、七ちゃんこと、七種さいくさカオルちゃん。


 なんとなく、普段の姿も、思い浮かべる事が、できそう。


 あと、九ちゃんも、ぱっつん子先輩みたいに、時々、怪しいお嬢様言葉になるのかなぁ、とか。


 思いつつ。


「どうぞ、続けて」


 七ちゃんの、制服に関する、疑問。


「はい。スカートとスラックスを選択できるとありますが、これは最初に選択したら、ずっとその制服ですか?」


 ああ、なるほど。


 校則には、はっきりと書いてなかった、かな?


「いえ、両方を用意して、好きな方を着ていただいて大丈夫ですよ。複数用意する事にはなるので、各自の負担にはなりますが」


 教頭先生も、流れるように回答。


「そうですか、よかった。スカートがいいんですけど、風の強い日とか、スラックスだと便利かな、と、思ったもので」


 七ちゃんも、ご納得。


「確かに、この書き方ですと誤解されるかもしれませんね。教頭先生、修正の手配は大丈夫ですか?」


 校長先生が、横で。


 おそらく、校則をプリントした資料を読みながら。


「あ、はい。まだ大丈夫です。稿は来週ですから」


「そう。お願いします、ね。それと、ご指摘、ありがとう、七種さいくささん」


「はい」

「はい!」


 教頭先生はぼそっと、七ちゃんは元気よく。


 お返事。


 七ちゃんの件が、すぐに片付いて。


 こそこそっと。


 自信なさげに、手をあげる、詰襟男子風の、八っくん。


「では……八木さん? どうぞ」


「あ、はい、えっと……」


 これまた、面接中、ずっとだけど。


 はきはきとした、七ちゃん九ちゃんと比べると、自信なさげに、小さな声で。


「えっと、先生じゃなくて、そこの男子の人に聞きたいんですけど」


 って、あたし?


「園田さん、よろしくて?」


「あ、はい、あた……わたしは構いませんけど……」


 教頭先生からも、振られてしまう。


「では、八木さん、どうぞ、続けて」


「はい、ありがとうございます。それでは……」


 何を訊かれる、やら。


 やら?


「ひとりだけ男子で、居心地は悪くないですか? それか、逆に女の子に囲まれて、居心地いいですか?」


 ふわぁ、わわわ。


 これ、また。


 でも。


 これで、確信、した。


 この子。


 『黒』だ。


 トランスジェンダー女子って言うのは、ウソで。


 女子校に、男子として、潜り込もうって、魂胆。


 だと、思う。


 けど、ここは。


 その点には、触れずに。


「園田さん、どうかしら?」


 教頭先生からも、せっつかれ?


 正直に。


「はい、えと、そうですね。入学した当初は、ホント、もう、針のムシロ、みたいに居心地悪かったですね」


 思い出す。


 入学したての、頃。


 はれ物を触るように、と言うか、近寄ってももらえなかったもんなぁ。


「でも、少しづつ女の子の恰好や仕草を学んで、いろんなイベントを通じて、少しづつ近付けて、今ではクラスの皆さんとも仲良くさせてもらって、居心地は、すごく、いいですよ」


 なんて。


 この一年を、思い出しながら。


 はふ。


「じゃあ、トイレとか着替えとかも、一緒に?」


 んなっ!?


 こ、こいつ……、やっぱり。


「さすがに、そんな訳ないでしょ。あたしは専用の場所を使ってるわよ」


「あぁ、その点については、入学後にきちんと説明するつもりでしたが」


 教頭先生が、フォローしてくれる。


「専用のお手洗いと更衣室を建築中で、あなた方の入学が決まれば、そちらを使って頂く予定ですよ」


「あ、そうなんですね。わかりました、ありがとうございます」


 納得したのか、しないのか。


 八っくんの、質問は、これだけ。


 かな?



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