第206話:大きさが変わると目測を誤ってぶつける事があります



 女装男子用の上げ底を、強制装着したミツキさん。


 キャミソールいち枚だと、とっても不穏な状態。


 なので、文字通り彼シャツとして、山田くんのシャツを借りよう、と。


 山田くんが自室に戻って、着替えを取りに行っている間。


「さすがにはヤバいよねぇ」

「だ、だよねぇ……」


 キャミソールで多少隠れているとは、言え。


 直視には耐えず。


 あまりそっち方面は見ないようにしないと。


 視線を外しつつも、ミツキさんが話しかけてくる。


「まぁやもくらいにすればいいのに?」


「いや、さすがにそれはダメでしょ……」


「そぉ? 男の子って、のが好きなんでしょ?」


「うーん、そうとも限らないと思うよ?」


「なに? まあやは、のが好きなん?」


 そんくらい。


 ミツキさんの指の先にあるのは、あたしの、胸元。


「まぁ、そう、かな? あんまり大きいと色々不便そうだし、ね」


「たしかに、こんだけと邪魔だよねぇ足元見えずらいしぃ」


「ちなみに、慣れないと目測誤って扉とかにぶつけちゃうから、気を付けて、ね?」


「そうなん?」


「この大きさでも、最初、着け始めた頃は、扉にぶつけてたよ」


「ほぉほぉ試してみるか」


 そう言いながら、部屋の出入り口の扉に近付いて行くんだけど。


「ほい、持って来たうわーっ!」


 絶妙なタイミングで帰って来た、山田くんが、扉を開けて入って来て。


 驚いたミツキさんが、よろけてしまって。


 ぽふっ。


「おぉっと、ミツキ、どうした?」


 すっぽり、山田くんの胸に収まる、ミツキさん。


 一瞬。


 抱き合って、硬直。


 でも、それも、本当に、一瞬。


 我に返ったミツキさんが。


「ふわぁっケンゴっななななんでも無いない着替えありがとっ」


 山田くんが手にしていたシャツを、ひったくって。


 部屋の中の方へと、戻って、そのシャツを上から羽織る。


「なんだ? 何かあった?」


「あはは、別にー」


「?」


 男の子には、あんまり聞かせたくない、話。


 でも、女の子としては、訊いてみたい話でも、あるかもねぇ。


 気になるよねぇ。


 男子の、好み。


 その男子が、意中の人ともなれば。


 ね?


「ほい、ワイシャツ着てみたけど、さすがにぶっかぶかだなぁ」


「第二ボタンまで閉めて、ね。あと、裾は出しちゃって、袖は折り返して、それから……」


 確か、ミツキさんが最初に着ていたニットのベストがあったよね。


 あった。


 椅子の背もたれにかけてある、ね。


「上からこのベスト着ちゃおうか」


 取り上げて、ミツキさんに手渡して。


「ふむふむりょぉかーい」


 ニットだから、でも着れる、はず。


 あとで、伸びちゃうかもしれないけど……。


 そして、さくっと着替え終えた、ミツキさん。


 くるっとひと回り。


 さらに、強調すべき部分を、強調すべく、少し背を反らして。


「どぉよ?」


「うん、いいんじゃないかしら? 髪もそのままで似合ってる」


「そうだな、うん。ちょっとだけ歳とった感じ?」


「ちょ、ケンゴ、それって、老けたって言いたい?」


「いやぁ、なんか、ちょっとお姉さん風?」


「ふむ……それなら、まぁ、いいか……」


「それじゃぁ、お披露目行きますか」


「はぁい」

「おぅ」


 嬉しそうに、先頭を切って、部屋を出ようとするミツキさん。


 ドアを開けようとして。


「ぎゃっ!」


 見事に。


 ぶつけちゃってますね。



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