第194話:女装男子のポーチの中身
お昼休み。
四階のいちばん端っこの教室から。
一階の、反対側の端っこの、あたし専用の、お手洗いへ。
いや、あたし専用って、訳では無いんだけどね。
本来は、来客用の、男子トイレ。
校内唯一の、男子である、あたしが利用できる、唯一の、お手洗い場、兼、更衣室。
とほほ。
でも、今、建設中の、新しいお手洗いと更衣室が出来れば。
若干だけど、近くなる、かな?
春前には完成するだろうし。
新築、と、なれば。
ちょっと、うきうき?
でも、それは、まだ少し先の、話なので。
廊下を渡って、階段を降りて、また廊下をてくてく。
やっと、お手洗い。
女装男子の、お昼のルーティン。
「じゃーん」
ポーチから取り出したりますは。
「電気シェーバぁ」
なのです。
って。
あたし、ひとりで何を言ってるんだか?
「っと、その前に、と」
電気シェーバーを、ポーチと一緒に洗面所の前に置いて。
「うぅ、冷たい……」
この水道、温水機能が無いっぽく。
真冬の冷水は、とっても
その冷水で、洗顔。
一応、軽く化粧水と乳液は付けてるから、それを洗い流して、それから。
ポーチとは別に持って来たフェイスタオルで水を拭って。
『じゅぃいいいいいいいいいいん』
電気シェーバーで、お髭剃り、剃り。
朝に剃っても、お昼過ぎにはちょこっと出て来ちゃうのよねぇ……。
放課後にも残らないといけない時は、もう一度。
面倒
お昼に放置してると、放課後には結構、目立つからねー。
しくしく。
レイちゃんが『永久脱毛したい』って言ってた気持ちが、よくわかる。
レイちゃんの場合は『永久に』処置しなくちゃだし、ね。
あたしの場合は……。
卒業、まで?
それ、とも?
「んー…………」
とりあえず、少なくとも、卒業までは。
このルーティンは、欠かせない。
って、事で。
「よっし、と」
お髭を剃り終えて、再度、化粧水と乳液で、お肌ケアして。
鏡を見ながら、ウィッグも少し整えなおして。
ルーティン、終了。
また、てくてく、と。
教室へと、戻れば。
「ただいまー」
「おかえりー」
「おかまーやー」
「ちょっと、それは禁句でしょ!」
「あっ! ごめんっ!」
あはは。
オカマーや。
ある意味、正しかったりはするけど、ね?
そのあたり、まわりも配慮してくれてはいるけど。
つい、ノリで。悪意が無いのは、わかってるし。
「ねーねー、ちょっと聞いていい? そのポーチのこと」
「ん? なに?」
ひとりの子が、何やら、あたしのポーチにご興味?
「女の子なら、なんとなく
なるほど。そういう事、ね。
だったら。
「えっと、ね」
ポーチを開けて。
さっき、お手洗いで出していた物も含めて。
中身を取り出して、机の上に、並べてゆく。
「あぁ、髭剃りかぁ……こっちは化粧水と乳液だね。ふむふむ」
「薬用リップに、髪留め用のヘアピンとゴム、それから……」
「絆創膏に、ティッシュ、綿棒、ハンドタオル、このあたりは普通の女子とだいたい同じだねー」
「なるほど、
一瞬、わからなくて、聞き返しそうになったけど。
すぐに理解をして、そこはさらっと、スルーして。
「うん、まあ、ね」
皆さんも、ご理解いただけたようで、何より。
それにしても。
フェイクで持ってるのも、ありかもしれない?
いや、いや。
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