第178話:ドライビング初体験



 母さんの、実家。


 あたしの、でもあるんだけど。


 小学校にあがる直前まで、ここに住んでたのよね。


 でも、あたしの部屋がある訳ではなく、母さんのお部屋。


 こっちは一応、残っていて、お爺ちゃんの荷物が少し置かれているけど。


 母さんとお布団を並べて。


 ぐっすり。



 翌朝。



 朝ごはんの、あと。


「よし、じゃあ、運転の練習、はじめるか」


 やっぱり……。


 昨夜、なぜか、母さんとお爺ちゃんが盛り上がり。


 お婆ちゃんも、止めるでもなく。


 母さんも練習したと言う、家の庭と言うか、私有地内で。


 母さんの車で、運転席に座ったお爺ちゃんが。


「母ちゃんの運転も見てるとは思うが、先ずはワシが運転しながら、コツを説明するから、よっく見ておくんだぞ」


 助手席の、あたしに。


「は、はぁ」


 とりあえず、見て、覚えろ、と?


 確かに、自分で運転するなんて、まだ考えた事もなかったから。


 母さんの運転とかも、漠然としか見てなかったや。


 ハンドルで曲がるのは、なんとなくわかるけど。


 足元、踏み踏み。


 左手で何やらごそごそ。


 何をやっているのか、は、よく解らず。


 それを、今。


 お爺ちゃんの解説付きで。


 ひぃ。


 とりあえず。


 左手の『シフトレバー』と、左足の『クラッチ』で、エンジンとタイヤを切ったり繋いだりする。


 らしい。


 右足で『アクセル』と『ブレーキ』を操作。


 『クラッチ』と『アクセル』の組み合わせで前進。


 この時、『クラッチ』と『アクセル』のバランス? が大事? とかで。


 クラッチでエンジンとタイヤの接続を切った状態から、接続してゆくのが。


 デジタルみたいに、オン・オフで切ったり繋いだりするんじゃ、なくて。


 アナログ的に、無段階で、ゆっくりオン、ゆっくりおオフ。


 しかも、それが。


 加速する度に。


 『シフトレバー』で、一速、二速、三速と、切り替える度に、クラッチとアクセルの、オン・オフ。


 この車の場合は、最大で五速だそうで。


 さすがに、広い敷地とは言え、そこまでの速度は出せないので。


 一速と二速で。


 走るところは。


 お家の庭から続く、畑のまわりに作られた簡易的な、コース。


 車一台分で、路面も舗装されている訳じゃないけど。


 直線からくるっと畑を回って戻って来るような、形。


 途中、ジグザグした部分や、カーブのきついところも、ある。



 それに、したって。


 お爺様。



 難しゅうございます。



 ひぃ。


「よし、じゃあ、実際にやってみるか」


「え?」


 いきなり?


「ほれ、交代じゃ」


 お爺ちゃんが運転席から降りて。


 あたしは、なんか流されるまま、せかされるまま。


 助手席から降りて。


 選手交代。


 運転手交代、か。


 あぃやぁ……。


 ものすごい、違和感。


 今まで、助手席か、後部座席にしか座った事が無いから。


 運転席って。


 ハンドルがあって、ものすごい、圧迫感。


 それに、目の前の、計器。


 えっと、左がエンジンの回転数を表示する『タコメーター』で。


 右が速度を表示する『スピードメータ』で。


 他にもなんか色々数字やら記号やらボタンやらレバーやら、たくさん着いてるし。


 これ、全部覚えて操作しなくちゃいけないんだよねぇ。


 あたしに出来るのかしら?


 なんて思いつつ。


 お爺ちゃんの言う通り、操作してみる。


 んが、しかし。


 お爺様。


 最初っから、そんなに上手くできるハズもないでしょう。


 何度か、エンスト。


 そりゃそうだよねぇ。


 でも。


 何度かやってるうちに。


「ぉお、さすがワシの孫、上手じゃないか」


「そ、そぉかな?」


 なんか、妙な事になった、今年の年末。




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