第134話:あたらしい制服



 校長室に呼び出され。


 八時間目の授業の、今後、みたいな説明は受けたけど。


 その内容は。


 校長室の、隣のお部屋。


 ここは……。


 見覚えのある、ソファとテーブルのある、部屋。


 応接室。


 入学前に、入学の意志を確認された、部屋。


 そこに。


 え?


「佐川さん、お待たせしました。対象の生徒たちを連れて参りました」


 校長先生が、応接室で待ってた女性に声をかけると。


 その女性がソファから立ち上がって。


「あはは~。待ってましたぁ~真綾ちゃん、みなさん、おひさしぶりぃ~」


 雪人さんのお母さん……雪江さん?


「お・お・おひさし、ぶり、です」


 どぎ、まぎ。


 先輩方も少し驚きつつも『おひさしぶりです』、『ごぶさたです』などなど。


 そりゃ、驚くでしょ。

 

 なんでこんなところに雪江さんが?


 それに。


 雪江さんの後ろにある、マネキン。


 そのマネキンに着せられた、衣装。


 ぱっと見は、『しの女』の夏服っぽいけど、これは……。


 雪江さんが、その制服マネキンの後ろに回りこんで。


「みなさんに着ていただくことになるぅ~、新しい制服をお持ちしましたぁ~」


 これって。


 男子用!?


 確かに。


 上は今の『しの女』の夏服を模した色とデザインだけど、襟の大きさが全然違う。


 そして。


 下は、スラックス!


「うわ、でも、これで学校でも男装できるじゃん?」

「うんうん、学校では男装のやり要もないと思ってたけど」

「これならバッチリですわね」


 でも、なんで?


「でも、どうして……エリ先生は知ってたんですか?」


「わたしも驚いてるわよ……聞いてないし……校長、これって一体?」


「とりあえず、座りましょうか」


 問われた校長先生が、雪江さんを促してソファに座る。


 あたしたちも教頭先生に促されて、ソファへ。


 上座? の二つのソファに校長先生と雪江さん。


 テーブルをはさんで、片側に先輩たち三人、向かいにあたしとエリ先生と教頭先生。


 下座? には、そののマネキンさん。


 テーブルの上には、何やら怪しげな平たい、箱?


「おほん……」


 そのマネキンさんを正面に、校長先生が咳払いひとつ、切り出す。


「こちら、佐川さんにご用意いただいた新しい制服ですが、ご覧の通り従来のスカートではなく、スラックスタイプになります」


 これって、つまりは……。


「これは特別に園田さん用に仕立てた……訳ではなくて、ですね」


 ちゃうんかいっ!?


 あぁ、そっか。


 それなら、あたしだけでいいもんね、ここに呼び出されるのは。


 先輩たちも一緒、って、こと、だから。


「女子校と言う事もあり、制服についてはスカートと決めていましたが」


 校長先生が、説明を続けられる。


「昨今の世情や生徒の意見にも配慮して、来期からはスラックスタイプの着用を選択できるようにしたいと考えていましたところ……」


 ちらり、と、校長先生が、お隣の雪江さんを見やると。


「縁あって、わたくしどもでご用意させていただくことになりましたの~」


 雪江さん……しゃべり方が少し他所行きながら。


 語尾はふにゃん、と、伸びるのは変わらないわね……。


 と、言うか、縁、とは?


 あ。


「もしかして、例のアルバイトの時の……」


「そうよ~、真綾ちゃんにアルバイトしてもらえるように~、校長先生にお願いした時に、ついでに~、ね」


 なるほど……そう言えば、『直談判~』とか、言われてましたね。


『商売よ~、商売~。新しい商売のネタの匂いがするのぉ~』


 とも……。


 ぉうぃぇえ。


「と、言う訳で、園田さんにはこれを……」


 雪江さんがテーブルの上の箱の蓋を開けると。


 マネキンが着てるのと、同じ制服。


 いきさつはともかく、これで、あたしも。


 いや、オレも!?



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