第122話:平和に始まる二学期、平和すぎてごめんね



 玄関を開けて、ダッシュで五秒。


 通学にかかる、最短の、時間。


 でも、でも、そんなダッシュを毎日している訳では、なく。


 たまたま、家を出たら目の前の押しボタン信号の歩行者用がギリギリ青の時くらいかな? 


 たいていは信号が赤だったり、逆に青になった瞬間だったりなので、のんびりと。


 ダッシュしなきゃいけないほど遅刻しそうな事もないし、ね。


 他の生徒も歩いてるので、走ると危険だし。



 そんな母校へと。


 徒歩数十秒で、二学期最初の、登校。


 そして、登校後の、ワナ。                                                                                                                               


 なんと!


 自宅から学校までの距離、時間よりも。


 校門から自分のクラスまでの遠きこと……。


 校門から昇降口、上履きの入ったロッカーまでひと歩き。


 上履きに履き替えて、校舎へ。


 四階建ての最上階、そのさらに端っこへと。


 てくてく、と、数分。


 そんな感じで。


 二学期最初の、登校。


 早くもなく、遅くもない、適度な時間。


 既に数名のクラスメイト。


 あたしが着席してからも、ぱらぱらと、教室に入って来る、クラスメイト。


 一学期を共に過ごしたとは、いえ。


 女子クラスに、ひとり紛れ込んだ男子。


 お互いに距離感がつかめず、業務的な会話以外は、ほとんど日常会話も、無く。


 一学期は、全員参加の球技大会のソフトボールで、少しクラスに貢献? した程度、かな……。


 中学の時も、あまり女子と話したり遊んだりなんて、しなかったからなぁ。


 先輩たちが『男子に慣れない』ってコトだけど、あたしも、女子に慣れてないのよね……。


 先輩たちのおかげで、先輩や先生とは問題なく話せるようにはなってるから、きっかけさえあれば?


 席について、しばし、ぼんやり。


 今日は、始業式ってことで、講堂と言う名に変わる体育館へと、移動。


 そろそろ時間ってことで、ぞろぞろと、移動。


 もちろんのこと、まわりは。


 女子。


 女子。


 女の子。


 女性。


 そこに混ざって、あたし。


 女装した、男子。


 取り急ぎは、浮いた感もなく、後ろ指を刺されることも、なく。


 一応、あたしの事は、全校生徒に知れ渡ってて。


 最初の頃は物珍しさからか、一年生の他のクラスの子や、先輩たちも、『見学』に来たりもしてたけど。


 『八時間目』の授業のおかげ(?)も、あって。


 女性らしくなったあたしが、溶け込んじゃって、珍しさが半減したのか?


 途中からはそういった『見学』もほとんど無くなって。


 でも。


(あの子が例の男子じゃない?)

(え? どこ?)

(右ななめ前を歩いてる子)

(わかんないよ)


 あはは。


 たまに、こんな声が漏れ聞こえて来ることは、あったりする。


 変に反応すると、おかしなことにもなりかねないから。


 華麗にスルーする。


 するする。


 講堂で、ありがたいような、ありがたくないような校長先生のお話。


 要約すると、二学期も勉強しましょうねって。


 ごくごく、当たり前の事。


 ちなみに、夏休み中には事故とかもなく、教員も含めて、全生徒が問題なく登校、だそうで(ただし、病欠者は除く)


 ぼんやりと、ぼんよりと。


 とりたてて、事件もハプニングもなく。


 開始される、二学期。


 うん。


 平和、大事!




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