第65話:シズさんとおまわりさん



 サイレン。


 救急車や消防車のサイレンは、わりと聞く事も多い。


 学校が道路に面している事もあり、そこをサイレンを鳴らして通過する救急車をたまに見かける。


 授業中とかだと、なおさら、気になってつい窓の外を見てしまう事もある。


 けど、パトカーのサイレンはあまり聞く機会が、無い。


 と言うか、ほとんど聞いたことが無く。


 テレビ番組とかでたまに聞く程度か。


 それが。


 今、リアルに。


 あぁ、これがパトカーのサイレンか、と思う感じ。


 サイレンは、本来は警告のために不安を掻き立てる音調らしいけど。


 今のウチらには、なんとなく、安心感を与えてくれる。


 でも、には。


 先輩たちと先生に近付いて来た三人の男性は、その音が聞こえて来ると、一瞬、固まったように動きを止め、不安そうな顔をする。


 きっと、何か後ろ暗い事があるんだろう、近付いてくるパトカーのサイレンに、さらに不安そうに。


「オレたちには関係ないよな?」

「関係ある訳ないだろ」

「たまたま、何かの取り締まりでもしてるだけじゃないか」


 そんな彼らに、言ってやる。


「不法侵入してるんですから、もしかしたら本当に捕まえに来たかもしれませんよ? 早く逃げた方がいいんじゃないですか?」


「そんな訳ないだろ、このオカマ野郎」


 あ。やば。


 ウチの方に詰め寄られる形にはなったけど。


 矛先を先輩からウチの方に向けられたのはナイス。


 その瞬間。


 最大限に大きくなったサイレンが、ぴたっと止む。


 遠ざかって小さくなって消えて行くのではなく、まるですぐそこに止まったかのように。


「ほらほら、おまわりさんが来ますよ?」


「おい、ちょっと、マジか?」

「そんな事ある訳ないって」

「そうだよ、オレ達がここで何してるかなんて警察にわかりっこないんだから」


 そうは言いつつも、男たちはパトカーのサイレンに不安を覚えているのは間違いないだろう。


「ウチのお手伝いさんが通報してくれたんですよ」


「それにしては早すぎるだろ、偶然だ、偶然」

「あ、ああ、オレ達は別に何も悪い事はしていないからな」

「そうだ、ちょっと一緒に遊ぼうって誘ってるだけだしな」


 不法侵入は?


 だが、しかし。


 彼らの思惑は外れ、ウチの思惑は当たる。


 小走りに駆けつける制服の警官。


 その後ろからは何故かメイド服に着替えた、シズさん!?


 逃げれば、自分たちが悪いと自白しているようなもの、と言う考えもあるのだろう。


 自分たちは悪くない、だから逃げない、と言った表情で、その場に留まる三人組。


 ただ、腰は引けていて、いつでも逃げられる体勢をとり始めているが。


「その三名ですわ、我が家の敷地内に無断で車を駐車して、敷地内に無断で立ち入ったのは」


 ウチらの居る場所に近付いて二人の警官に告げるメイド服姿のシズさん。


 何気にめっちゃ似合ってて噴き出しそうになるのを堪える。


 母さんや、先生、先輩たちも、目を丸くしている。


 でも、想像した通り、やはり、シズさんが通報してくれたみたい。


 別荘の敷地内に車で侵入してきた時点で察知して通報していたのかもしれない。


 男たち三人と、警官二人、それにシズさんで話をしている間。


 母さんに目配せして、先生と先輩たちを少し遠ざける。


 母さんと先生はともかく、三先輩はお巡りさんが来た後もまだ怖そうにしているし。


 ウチは残って、少し離れて大人たちの会話を聞く。



 しばらく押し問答のような話があったが、増援の警察官も到着し、男たちは現行犯逮捕になり、連行されて行った。


 被害届の関係のためにシズさんもメイド姿のまま、同行。


「申し訳ございませんが、少し所用を片付けてまいります。お夕飯の材料の準備は済ませてありますので、ごゆっくりどうぞ」


 そう、言い残して。


 なんだかんだと時間を取られて、いい時間になってしまったこともあり。


 さらに、先輩方と先生の心理状態もあって。


 夕食は、ウチと母さんで作る事になったけど。



 お風呂に入って、晩御飯を食べて、少し元気になってくれた先輩方がぽつり。


「お巡りさんの方が、怖かった……」

「うんうん」

「ですわね」


 あ……。


 そういえば、お巡りさんに追いかけ回されたトラウマがあったか。




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