第59話:これが最後のデートだと思われる
ゲームセンターの、ぬいぐるみキャッチャーの前。
取ったばかりの人形を両手に、はしゃぐエリ先生が。
かわいいな、と、思っていたらば。
その先生が。
ぴたっと。
停止して固まって、ウチの方を凝視してくる。
「? 先生?」
その先生が、ぼそっと。
「あなたたち……」
え?
よく見ると、先生の視線はウチではなく、ウチの脇を通り過ぎて。
後ろ?
振り向くと。
「やるじゃないですか、園田氏。最後もミスったら助け船出そうと思いましたが」
チャリーン、と。
百円玉を右手で飛ばして、もて遊ぶ、おさげ子先輩。
と。
ここまでくれば、もちろん的に。
金髪子先輩とぱっつん子先輩も並んでいて。
「いつから?」
先生も、聞いて無かった、知らされて無かった感。
もちろん、ウチも聞いてねぇ、状態。
「最初からだよー」
うん、でも。
言われてみれば。
三人そろって急用で来れなくなるとか。
何そのシナリオ、的な?
たまたま、偶然かなとは思いつつも。
変装しているならまだしも、『しの女』の制服のままの三人が。
目立たずに尾行とか、どうやって? って、考えてしまうけど。
ウチらの方も、買い物やら話やらに夢中で。
周りが、特に、後ろが見えてなかったのかも?
「せっかくだから、黄色の子も、取ってあげるわ」
すすっと、おさげ子先輩がぬいぐるみキャッチャーに近付いて、手にしていた百円玉を投入。
あれよ『→』あれよ『↑』と。
「はい、これ」
一発で取り出した黄色の髪の子を、先生にプレゼント。
「あー……いやぁ……黄色の子は、持ってるんだよね……」
「あら……」
差し出した黄色い子が、おさげ子先輩の手の中、文字通り、宙に浮いている。
「あ、じゃあ、ウチにちょうだい」
金髪子先輩が救いの手。
「百円ね」
「えー……まぁ、しょうがないか……はい、百円」
かわいらしいお財布から、百円玉を取り出しておさげ子先輩に渡す、金髪子先輩。
「まいだりー。青とピンクも、要る?」
「とりあえず、黄色だけでいいよー。一番好きな子だしー」
なるほど。
金髪子先輩は、このアニメは好きだもんな。
「この間、園っちと一緒に映画見て、最新作の放送も見始めちゃったんだよねー」
なるほど、なるほど。
「エリちゃんも好きなんだーって、びっくりしたけどねー」
うむ。
それは、ウチも思った。
と、言うか。
エリ先生。
アニメ好きで、裁縫が得意。
突っ込みたいけど、突っ込まない。
空気は読める子、
ォェー。
自分で言って鳥肌を立てるのが特技になりつつある、かもしれない。
「ま、まぁ、いいわ……やましい事は何もしてないしねっ!」
三先輩に、先生との買い物姿を見られていたとはいえ。
先生の仰る通り、やましいことなどは、何も。
「男性が強引によからぬ事をする可能性がありますからね」
「まぁ、園田氏に限って、そんなことは無いとは思いながらも」
「うんうん。ウチらん時もおとなしかったしねー。念のためだよ、念のためー」
ヘタレですみませんねー。
男だから、男なりの、興味や欲が、無いわけじゃないよ?
でもね。
身を滅ぼすようなリスクは、回避するよ?
常識的にも、ね。
と、言うかですね。
「それなら最初から皆で回れば問題ないのでわ?」
素朴な疑問と言うか、これも常識的な考え方として。
でも、金髪子先輩が、
「それだと、エリちゃんだけ、デートにならないじゃーん」
「あなたたちっ!?」
え? そゆコト?
エリ先生、真っ赤になっちゃってますけど……。
かわいい。
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