第54話:このデートの最後に爆弾が



 少し早い時間に夕食の会食を、終えて。


 食後のデザートは、市販のプリンやらで、各自好きなお茶を。


「それで、皆さん、男性には慣れましたか?」


 母さんにも『八時間目の授業』の『目的』についは、話してある。


 今日は、ウチが男装……じゃなくて、男子の格好で、男子っぽく……じゃなくて、男子として接してみた訳だけど。


「うーん……見かけは男子だけど、中身がねー」


 金髪子先輩?


「そうですね、男子ですけど、為人ひととなりは分かっていますしねぇ」


 おさげ子先輩も。


 男としては見られてない感。


「そうですかしら? いつもと少し雰囲気が違って、あぁ、男子でもこういう人もいらっしゃるのかしら、と思えましたわね」


 ぱっつん子先輩の、意外な感想。


「確かに、男性は怖い、ってイメージや先入観が強いけど、園田さん……真綾まあやさんを見てる限り、怖さは全然、無いですもんね」


 エリ先生が、先生らしくまとめに入る。


 そこに母さんが。


「わたしも……『しの女』に通っていた時は、今の皆さんと同じように、男性に不慣れだったんですよ……」


 語り出す!?


「わたしも、小中高と、ずっと女子校で、男性に免疫が無くて」


 語り出したっ!


 三先輩も、身を乗り出して、うんうん、と聞く気まんまん。


「皆さんとは逆に、怖がったりはしなかったんですが、免疫がなかったもので、共学の大学に進学して、すぐに……」


 ん?


 もしかして、何やら、ウチも知らない話?


「男性のことを何も知らなかったもので、進学先の大学の先輩にコロっと言いくるめられちゃいまして……」


「その方と、お付き合いされたんですか?」


 エリ先生が、合いの手よろしく、母さんに問う。


 母さんは、何故か、隣に居たウチの肩を掴んで引き寄せて。


 むにゅ。


 ぎゃー。やめてー。恥ずかしいぃ。


 じたばたしているウチを余所に、母さんが続ける。


「ええ、一応、お付き合いみたいな形だったとは思うんですけど、あれよあれよと……この子がデキてしまいまして」


 ぶっ!


 いきなりぶっこんで来たなっ!


 てか、あんまり聞きたくないぞ?


 その手の話は……。


 自分の出生秘話とか。


 知りたいようで、知りたくねぇえええええっ!


「では、その方と、ご結婚を?」


 先生が代表審問?


 三先輩は固唾をのんで聞き入ってる感じ?


 ウチは……。


 ここから、逃げてぇええええ。


 じたばた。


 がっしりと、母さんに肩と言うか、腕をホールドされて逃げられず。


「それが、その人、わたしが妊娠したのを知ると、蒸発しちゃいまして……」


「え?」

「えぇぇ?」

「蒸発!?」

「おぉ……」


 マジ?


「マジ?」


 さすがに、ウチもすぐ横の母さんに、耳元で聞き返してしまったわ。


「マジなのよー。何処へ行ったか、さっぱり行方知れず。両親に相談したら、激怒されて、勘当されて、泣く泣くその人の両親に相談したら……」


 母さんの語りを、端折って理解すると。


 自分の実家からは、勘当。


 母さんには兄弟がいたから、母さんはいらない子、とされたらしい。


 蒸発した男の実家にも相談、と言うか、泣きついたところ。


 その人たちは、自分の息子の責任を取らせてくれ、との事で。


「じゃあ、もしかして、お爺ちゃんとお祖母ちゃんは……」


「ええ、真綾の父親の両親、なのよ。今はわたしの両親でもあるけど、ね」


 母さんの実の両親だとばっかり思っていたが。


 そういえば、詳しい話は聞いたコトがなかったよな……。


 詳しく聞けば。


 養子縁組でその男の両親の養子となった、と。


 大学は中退する羽目になったけど、新しい両親の援助もあって。


 どうにかウチを育てながら、働き始めて。


「だから、男性を見る目は、早めに養った方がいいですよー」


 言い方は、やけに軽い、けど。


 めちゃくちゃ、実感、こもってますね、お母さま……。



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