第46話:母さんと、なし崩し的に



 蒸れるウィッグ(カツラ)の代わりに、と、ポニーテールを模した人工の頭髪を購入。


 母さんとネットショップで『エクステンション』なる、いわゆる『つけ毛』をポチって終わり。


 かと、思いきや。


「じゃぁ、明日はどんなお洋服を買いにいきましょうかしらね」


 母さんが、当初の話をぶち込んで来る。


 忘れてなかったか……。


 エクステの話で、元の話を忘れてくれたかと思ったけど。


 甘かった。


「行かないよ。『洋服を買いにいくための洋服が無い』状態だし」


 どうせ、母さんはウチを女装させて、女装用の女性用の洋服を買いに、と言ってるから。


「あぁ……下着とルームウェアは買ったけど、外出用のが……お母さんのお洋服は……サイズが合わないかしら」


 実は、母さんの方が、いろいろデカイので、サイズは合わないだろうし。

 

「デザイン的にも、ウチが着るような服じゃないでしょ?」


「むぅ……それもそうか……」


 お歳を自覚してくれているようで、何より。


「じゃあ、明日は制服でお買い物に」


「えー」


 ぶーぶー。反抗期とかじゃないけど、さすがに反抗するよ?


 いや、まあ、『しの女』の制服で外出は。


 最近、ちょこちょこしてるとは、言え。


 母さんとふたりでお出かけ?


 ぷるぷる。


 勘弁~。


「うーん、ガーリー? フェミニン? 若いのファッションって、奥が深そうね……どういうのが似合うのかしら」


 ちょ。


 母さん?


 パソコンで『女子高校生向けファッション』とか、検索して。


「ここは、敢えて、ボーイッシュなのも、アリなのかしらねぇ……」


 ボーイッシュな、女装男子。


 なんだそれ?


 本末が転倒しまくってる気がするよ?


「あぁ、そうだわっ!」


 お母さま!?


 ビックリした。急に大声上げないでぇ。


「こんな時こそ、先輩に頼るべきねっ!」


 はぁ……。


 先輩。


 『しの女』の三先輩。


 では、なく。


「女装ショップの店長さん?」


「うん。お隣が少女向けのファッションショップでしょ? 丁度いいじゃない」


 確かに、普通の女性向けのショップで右往左往するよりは。


 マシ?


「あぁ、もうこんな時間なのね……お店はもう締まってるでしょうからアポイントは無理ね……」


「いいんじゃない? 別にアポなしで行っても」


「店長さんが居らっしゃらないと、アドバイスもらえないわよ?」


「まぁ、行く前に電話で確認してみればいいんじゃ?」


「それもそうね! じゃぁ、今日はこのくらいにして、早めに寝ましょう!」


 母さん……。


 やる気、まんまん。


 ウチが男だった時は。


 って、男だった時ってなんだよ。


 今でも男だよ!?


 いや、女性用の下着つけて、女性用のパジャマ着てるケドさ。


 もうね。


 ブラの窮屈なのにも、だいぶ慣れて来たヨ。


 店長さんのおっしゃってた、通り。


 まだ、『着けてないと、不安』までは行ってない……。



 …………と、思う?



 それはさておいて。


「あ……」


 しまった。


 完全に。


「明日、行く、のね?」


「行くわよーっ!」


 十中八九。


 母さんの術中に。


 ハメられた…………。




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