étoile
びっくりした。今までの人生で、一番驚いた瞬間かもしれない。
「こら、Yves。陛下の御前で、失礼ですよ」
こう指摘されて、慌てて頭を下げる。でも、硬直するのもしょうがない。……だって、今。僕の真ん前に、国王陛下がいるんだから。
「陛下、彼がYvesです」
Louis ⅩⅣ。天使のような微笑みで、僕に挨拶を返す。
いつも、王宮で踊る時。陛下は一番奥の真ん中の席で、僕たちのことを遠目に見ていた。「少年バレエ団」のことなんか、ちっとも興味なさそうだったのに。
それに、先生も先生だ。いきなり僕の目の前に、陛下を連れて来るなんて。
そりゃあ、先生が有名なバレリーノで、王宮内でも顔が広いことは知っていた。けれど、陛下とお話しできるほどとは、僕は露ほども思っていなかった。
「陛下は、先日の舞台をご覧になっておりました。そして貴方を、陛下のバレエに加えてくださる、と」
僕が? 僕が陛下と、バレエを踊る? そんなことって、あるのだろうか。
「貴方の踊りは素晴らしい。これは陛下直々のお言葉です」
ですから、光栄に思いなさい。そして、陛下と共に踊るのです。先生は、そう言った。
僕は未だ夢心地で、見目麗しい陛下を見た。
陛下は僕と同じぐらいの歳なのに、僕とは何もかも違って見えた。服装も、気品も、言動も。幼い頃から「Louis ⅩⅣ」と呼ばれたら、僕もこうなれたのだろうか……。
……いや、そんなこと、この国が滅んだってあり得ない。
先生はしばらく何か喋っていたけれど、僕はほとんど聞いていなかった。ただ、すらっと佇んでいる陛下の顔と、膝まで伸びるビロードのマントに、すっかり釘付けになっていた。
近いはずなのに、遠い。遠いはずなのに、近い。考え過ぎで、頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。
でも。
「それでは、陛下。Yvesのことを、どうぞよろしく頼みます」
「ええ、よしなに」
陛下はすっと片手を上げて、僕の目を見てにっこりと笑う。それは、大人に混じってうんと遠くから見るより、ずっと優しくて綺麗だった。
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