第49話_ケイラ

目が開いた瞬間、村田は自分が病院のベッドに横たわっていることをゆっくりと認識した。

治療の跡、輸血がされていた。

多少傷跡は残っていたが、体を動かしても問題ないほど回復していた


「あれ..?ほとんど治ってる、どうして..」

彼は困惑しながらつぶやいた。

治療を受けた記憶はあったが、この速さで回復するとは思ってもみなかった。


その時、部屋の扉が静かに開かれた。

入ってきたのは、穏やかな表情を浮かべる女性看護師だった。

彼女はライトを攫った人物とは別人の穏やかな表情の持ち主だ。


「あれ、村田さん!?もう大丈夫なんですか!?」

彼女の声には、驚きと安堵の色が同居していた。


「あ、えぇ、何となくですが..」

村田は自分でも信じられないような声で応えた。

彼の心は、自分の体が正常に戻った事実を受け入れようとしていた。


「ちょっと待っていてくださいね!」

そう言い残して看護師は急ぎ足で部屋を出て行った。

彼女はおそらく医師を呼びに行ったのだろう。


その間、村田は部屋の窓から外を眺めた。

外はすっかり昼下がりで、日差しは天を仰ぎ、世界を明るく照らしていた。

時間の経過に思わずため息をつく。


しばらくして、扉が再び開き、昨日診察を担当した医師のイアンが現れた。

彼は落ち着いた佇まいで、村田に向かって微笑んだ。


「驚異的な回復ぶりですね、村田さん。お身体の具合はいかがですか?」

イアンの声は優しく、村田の安心を促すように響いた。


村田はしばらくの間、自身の状態を確かめるように身体を動かしてみた後イアンに向き直り、

「一体、どれくらいの間、眠っていたんですか?」と尋ねた。


「半日ほどですよ。」

イアンが答えると、村田の表情には少しの安堵が浮かんだ。

彼は昨夜の出来事がまるで夢であったかのように感じられたのだ。


しかし、村田はすぐに真剣な面持ちに戻り、昨夜、看護師がライトを攫った件について語り始めた。

イアンの表情は、その話を聞くうちに少し曇り、深刻な様子を見せた。


「宿の主人からもライト君が攫われたとの連絡を受けました。そのため、すでに自警団に捜索を依頼しています」

とイアンは言った。


「ただ、まさかうちのケイラがそんなことを..」

彼の声は途切れ、複雑な感情を隠しきれなかった。


「ケイラさんというんですね、あの看護師は。なぜ彼女はライトを..」

村田はさらに詳しく知りたがった。


「申し訳ありません、私には見当がつきません..ライト君とケイラは採血時にしか顔を合わせていない認識ですので..」

イアンが慎重に言葉を選びながら説明する。


「そうですよね。..いや、採血?....もしかして」

村田の声がふと低くなり、彼は思考に深く没入する。

ライトの血液が紫がかった特別な色であることを思い出し、

その瞬間、何かが繋がったかのように彼の目は輝き急に立ち上がる。


「あの、自警団の方と直接話がしたいのですが、どこに行けば?」

村田の声には決意が込められており、彼の体はもう行動を起こす準備ができている。


「いや、村田さん。まだ体の方が..」

と応えるが、村田はそれを遮る。


「大丈夫です、自分の体の事は自分が一番わかっています。それで、どこですか?」

と、彼の声は決断と自信に満ちていた。


「..ケラプさんのカフェです。場所は..」

イアンが案内しようとすると、


「アップルパイのところですね。ありがとうございます」

と、村田はイアンの言葉を遮り、行動を起こす準備をする。

彼の中には、ライトを救い出すという強い決意がある。

その決意は、彼がベッドから飛び起き、カフェへと急ぐ原動力となる。


「ちょっ、村田さん!?」

イアンの声が後ろで響くが、村田の足は止まらない。

彼にとって、今は行動を起こす時。

友人を救うため、そして真実を明らかにするために。

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