第5話_沈んだ大陸

その日の夜、ライトが2階で深い寝息を立て始めたころ、

村田とグレイスは長机を挟んで静かなダイニングルームに座っていた。

晩御飯の残り香が漂う中、自分が医療に従事していたことの話題で会話が自然と盛り上がっていた。

会話の中でグレイスが過去メガラニアという国で医者として働いており、現在もこの街の診療所で活躍をしているということを聞いた。


「そういえば村田さんはどちらから来られたんですか?」

グレイスは冷たい水を口に運びながら、穏やかな声で尋ねた。


唐突な質問に村田は少し眉をひそめ、思案の色を浮かべながら頭を掻きつつ答えた。

「正直自分でもあまりわかってはいないのですが、おそらくこの大陸の外からだと..」

その言葉には迷いと戸惑いが混じり合っていた。


「大陸の外?..外から来たという人は初めて聞きましたね」

グレイスの目は好奇心に輝き、軽く驚いた様子で村田を見つめた。


「珍しいんですか?」

村田は眉間にしわを寄せ、心配そうに尋ねた。


「はい、この『アドリア大陸』は海に沈んでいる大陸なので、外から人が迷い込むことなどまず無いはずなんですよ」

グレイスの声には、この大陸の孤立性に対する誇りと同時に、

わずかな不安も感じられた。


彼の眼は少し広がり、不思議そうに言った。

「し、沈んでいる?..空気とか海普通にありますが..」


「はい、おっしゃる通りこの大陸は沈んでいるにも関わらず、地上に存在したころと同じ状態を保っています」

グレイスの言葉は落ち着いていたが、村田の瞳には混乱と驚きが映っていた。


「このような形で沈めた仕組み、理由は一切不明です。現在わかっていることは、この大陸全体を覆う透明な壁のようなものがあるということのみです」

グレイスは穏やかに説明しつつ、村田の反応を注意深く観察した。


村田は一瞬考え込むように顎に手を当てた。

「透明な壁..つまり外には出られないということですか?」


「色々試してはいるみたいですが、傷一つ付かないそうです。仮に空いたとしても海に沈んでいるので脱出は容易ではないですね」


「..さてと、難しい話はこれくらいにして、明日から村田さんにお願いしたいことについて話しましょうか」

グレイスは水の入ったコップを手にしながら、優しい笑顔で話しかけた。


村田は一瞬の沈黙の後、頷きながら応じた。

「はい、私にできることであればなんでもします」

村田は真剣な表情で答え、

同時に内心では大陸の謎を調べることへの興味が強くなっていたが、

まずは目の前の仕事をこなすことを第一優先とし、グレイスの提案に集中することに決めた。


「私と一緒に働きませんか?」


「一緒にとなると、診療所ですか?」


「はい、ぜひ!」


「..わかりました、私もこちらの医療について興味があったのでぜひお願いします」

彼の声は新たな挑戦に対する覚悟を示していた。

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