第46話:鉱石の暴走

「ワンデルさんが探している石ってどんなものなんですか?」

 ワンデルさんと私たちは、近くの石に腰掛けてお互いの話をすることにしていた。

「ああ、そうだな。正直なところそれもわからない」

「わからないんですか?」

 キズナが怪訝な声で聞く。

「自分の願いが本質的にわかっていないからな。だから手当たり次第に掘っているってのが正確なところだよ」

「掘っていれば見つかるんですか?」

「それもわからんな。でもパワーストーンは自分の願いに反応して力を発するという。だから、掘っているうちに俺の願いにあう石があればわかるはずだ」

 ようするに手当たり次第と言うことか。それはまたずいぶんと。

「どれくらい掘っているんですか?」

 つい私は聞いてしまっていた。

「年月はこの《マボロシの海》では特に意味が無いが……、まあ相当の時間だな現実の世界では数年数十年と言ったところだろう」

「そんなにも……」

 キズナがため息をつく。

 私も同じ気持ちだったと思う。そんなにもまでして、パワーストーンを求めるワンデルさんの気持ちが私にはわからなかった。

「見つかるんでしょうか? ワンデルさんの探している石は」

「見つかると信じていなければこんなことはできないさ。なに、なにもまったく可能性が無いわけじゃない。ここにはすべての鉱石があるという《星》だ。いつかは出会えるはずさ。少なくとも俺はそう信じている」

 彼の意志の強さと、深い信念を感じた。

 ワンデルさんは本気なんだ。そう思うと私は急に申し訳なくなってきた。

「私は、そこまで石を求めているわけじゃ無いんです。ただ、店長さんの好意がうれしくて、そして記憶の無い私の道標になるのなら、そういうパワーストーンがあったらいいなってくらいで。なんかごめんなさい」

 私はワンデルさんに怒られそうな気すらしていた。本気で自分の大切な何かを駆けてここにいるワンデルさんと、この先の私にあってくれればと、周りの人もそう願ってくれたからとここにいる私。

「気にすんな。パワーストーンなんて本来そんなもんだ。俺がおかしいんだよ。本気ではあるが、あんたの行動を非難するつもりは無いさ」

 そういうと私の顔を見つめて少し黙った。

「いや、むしろあんたの方がここの石が必要なのかもな。わからんがそんな気がする」

「そう、思うんだね。君も」

 それはキズナの言葉。

「ああ、あんたもなんとなくか確信があってか気づいてるんだろ。きっとお嬢ちゃんの行く道には、なにか大きなものが待っている。ひょっとして俺よりも重い決意が眠っているのかもな」

 そう言われたが、私にはピンとこない。

 なぜかキズナは納得しているようだ。

 私だけが、その感情に気づけていない。


「あんたらはどうするんだい?」

 ワンデルさんが聞いてくるが、私にはその答えが無い。

「せっかく来たからね。ここでスフィアにあう願いのパワーストーンを探していくさ」

「そうか、じゃあ俺も少しだけ付き合うよ。見たところあんたら道具も持ってないしな」

「いや、それは僕のライブラリから引き出せる。気にしなくてよいよ」

「そうなのか? でも、まあ経験者の助言くらいは必要だろう。俺も少しだけついていくよ」

「ありがとうございます」

 よくわからない展開になってきたが、私も石を探すのだから経験者はいた方がいいに違いない。


 私たちは、ワンデルさんの案内で渓谷の奥のエリアに来ていた。

「なぜここに?」キズナが聞いてくれる。

「ここが、いちばんいろんな石が掘り出される場所だからさ。何を掘るかわからないなら、まずここから始めるといい。まあ、俺のほしい石はなかったけどな」

「そうなんですね。じゃあ、ちょっと掘ってみます」

「やり方くらいは教えてやるよ」

 ワンデルさんが言うと、少しキズナの機嫌が悪そうだ。

 教えるのは自分の役目とか思っていたのに違いない。

「ほらスフィア、つるはし。君の力でも扱える『特注品』だよ」

 キズナがそのワードを協調する辺り、少し根に持っているのに違いない。

 ツアーガイドとして、私に教えるのは自分だという矜持があるのだろう。

 しかし、かわいいなキズナ。こんなキャラだっけか。

 そんな想いは口には出さず、つるはしを受け取って掘る場所の当たりを付ける。


 パワーストーンは願いを求める人のところに辿り着く。そんな話を店長さんとの話で聞いていた。

 どうせ、どう掘っていいかわからないなら、直感に頼るのがいい。

 私はそう感じていた。

 道具の使い方は、ワンデルさんが教えてくれる。

 力が無い私だけど、ワンデルさんは特に手伝ったりとか、代わってくれることはなかった。自分の願いをかなえる石は自分で掘るべきだと思うから、そう彼は言っていた。

 私もそう思う。

 つるはしは幸いにして軽い。キズナが私でも扱えるような特別な道具を出してくれたらしい。キズナは体のサイズ的に手伝えないから、その分道具に配慮してくれたんだろうなあと思う。ムキになってる気もするけれど。


 周りを見渡す。

 キラキラ輝く鉱脈が周辺に無数に見える。

 正直どこを掘っても、宝石がいくらでも出てくるような場所。でもそれじゃ、私が掘るべき石には辿り着かないんだろう。

 だから、ここは私の心が呼んでいる場所を掘るべきなんだと思う。

 辺りを少しだけ歩きながら見渡す。

 赤い石。青い石。金色の石。透明で輝く石。

 どれも原石、力のある宝石の元。これから誰かに力を与えるそんな運命の宝石たち。

 さあ、私の石はどこにあるだろう

 そう思ってみてみると、あるところに目が吸い付けられるように引き寄せられる。

 不思議な力が感じられた。表面じゃない。

 どこかこの深いところに、私を呼んでいる何かがある。そう感じられた。

 たぶん、私の力でいくら掘っても届かないはずの場所。

 でも、私は迷わずそこめがけてつるはしを大きく振りかぶると、力一杯振り下ろしていた。

――ガキン

 おおきな堅い音。そして、砕ける大きな石だった物。

 その中から、光が、あふれた。

「うおっ!」ワンデルさんの声がする。

「なに? 今度は何をやったの?!」キズナの叫ぶ声がする。

 いつもやっているかのように言うのね。失礼な。……まあ、やってるけどさ。

 光は砕いた石からあふれているようだった。

 揺らめくような深い青と白の光。空のような海のようなそんな色。

 その光はこの始まりの渓谷に広がっていった。

 そして……。


「これは……?」キズナが驚いたようにつぶやいた。

 私の掘った石の光りに呼応するように、辺りの鉱石たちも光り始めたからだ。

 辺りは輝く光のイルミネーション。

「石がよろこんでいる……?」ワンデルさんの言葉。

 確かに、辺りの光は踊るようにはねるように。まるで生きもののように輝いていた。

「こんな現象は初めて見た……」

 呆然としている。

 私だって十分に驚いているのだけれど、これまでの経験がありすぎて思考が止まらずにいてくれた。

「ねえ。これってひょっとしてまずい?」

「……たぶん、まずいね。いやあ、またやってくれたねスフィア」

 キズナがぼやく。うるさいなあ。

 辺りを見ると、光はどんどんと強く広がっていき、そして石が揺れ始めた。

 地震のようでもあり、石が踊りながらこっちに向かってくるようでもあった。

「大変だ、鉱石が暴走している! いったん逃げろ!」

 ワンデルさんの言葉で私たちは、発光の中心から逃げるように走り出す。


 ふと後ろを振り返る。

 緊迫感が無いと言われてしまいそうだけど、こんなことを思った。

 ……ああ、まるで石たちがダンスしているみたいだなって。

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