㉕
翌日から、さらに事件の調査にのめり込んでいくようになりました。パソコンにかじりつき、もう何度も読んだ記事を、読み残しがないのかと繰り返し眺め続けました。
被害者やその友人知人のSNSの投稿を再度洗い直しました。携帯電話の電源は切っていました。勝太から連絡が来ていることが怖かったからです。あれだけ人を傷つけておきながら、なんと身勝手なと憤りに似た何かを今こうしていると感じるのですが、それでも、当時の私は必死だったのです。
もう自分自身を肯定してくれる人はいません。ネエネエも母もいない。最後の味方だった勝太は、私自ら切り捨てたのです。そのことを認めることがどうしても怖かったのです。私はネエネエのような純粋な美しさを少しも持つことができない、ただの、どこまでも身勝手なだけの人間なんです。そのことを、私は認めたくなかったのです。
それでも、皮肉なことにそんな生活を続けていたおかげで一つの新しい手がかりを見つけることができました。
一番最近の被害者が、件のSNSとは別のそれに、ある写真を投稿していました。最新の投稿は高級そうな赤い車のボンネットに寄りかかって、可愛らしくポーズをとっている写真でした。他にも高級ブランドの鞄や服を身につけていましたから、端から見ればなんとも贅沢な生活をしているのだろうと思うはずです。実際は見栄で固められた姿でしかないのに。それでも、見栄がふんだんに込められた写真のおかげで、一歩大きく前進したのは間違いありません。
私は同じように他の被害者を片っ端から調べていく中である共通点があることに気が付きました。先程の彼女がポーズを取っていた車と、似た車の写真が映っているものがいくつか見つかったのです。そして、その写真がどれも彼女達が殺された日に投稿されていることからも、犯人がこの車に乗っていることはほぼ間違いないように思われました。
ただ、似たような車はいくらでもあります。色だけでしたら、勝太が乗っている車にもよく似ていました。それもあって、やはり彼が犯人なのではないかとの疑念が再び頭をもたげて来ましたが、私はそれを必死に振り払おうと、今まで以上に画像一つひとつを食い入るように細かく調べました。ただ、勝太が犯人ではないと、私自身が信じるために。
投稿された写真をそれぞれ見比べていると、一枚だけ車内が映っているものがありました。それは何かの椅子の上でピースサインをしている自撮り写真でしたから、最初はそれが車内のものだとは気が付きませんでした。
それでも、彼女がもたれているそれがソファーや椅子ではなく、助手席のものだと気が付いたのは、背もたれの上部に白い布のカバーが掛けられていたからでした。何かこれもヒントになれば良いぐらいのつもりで眺めていましたが、私はふとある部分に視線が吸い寄せられました。
その一点には何やら黒い線が一本伸びていて、最初はそれが虫か何かだと思ったのですが、それはよくよく見ればカバーが破けて、後ろの色が見えているだけでした。そのことに気が付いた時、私が思い出したのは勝太とのとある一幕でした。
その日も勝太に連れられてドライブをした日で、休憩のために車を降りようとした際に、偶然爪がカバーに引っかかってしまったのです。あっと思った時には遅く、真っ白なカバーには一本の線が伸びていました。私は何度も弁償すると言ったにもかかわらず、勝太は気にすることはないの一点張りで、なんて頑固なんだと思ったものです。
やっぱり、勝太が犯人だった。
私はあまりにも鮮明に思い出されたその記憶を、振り払う気力はありませんでした。ただ、目の前の事実を受け入れることしかできなかったのです。
それでも、やはり彼を疑いたくない私は、必死に自分に言い訳を繰り返し、ようやく絞り出した結論は実際にこの目で確かめるしかないという、至極簡単なものでした。ですが、確かめようにもこの前のことがあったばかりですから、勝太に直接確認することははばかられました。なら、勝太がいないすきに見に行くしかないのだろうかと考えたとき、以前勝太に彼の父の浩三さんが、勝手にこの車に乗ってドライブしていることがあると話していたのを思い出しました。
勝太から私とのことを聞かされている可能性もありましたが、それでも勝太に直接頼むよりかは気分は楽でしたから、私は浩三さんに連絡しようと久々に携帯電話の電源を入れました。そこには予想していたとおり、勝太からいくつも連絡が届いていましたが、私はそのどれもを見ないようにして、急いで浩三さんの連絡先を探したのでした。
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