第60話 赤味噌
「とりあえず、調味料から揃えますか」
何を作るのかが決まったので、私は試しにその調味料を生成しようと思って、何も入っていない小皿に手のひらを向けた。
上手くいくかはまだ分からないけど、試してみる価値は十分にあるだろう。
「何か調味料を作るのか?」
「はい、全く新しいものって訳ではないですけど……エルドさん?」
魔法を付加させるのは初めてとなる調味料なので、少量で試してみようと思って【全知鑑定】をしようとすると、エルドさんが少し離れた所に立っていた。
厨房の扉の前に立った不自然な立ち位置に小首を傾げていると、エルドさんはなんでもないような顔をしていた。
「いや、気にしないでくれ」
「気にしないのは無理ですよ。……まぁ、別にいいですけど」
なんでエルドさんがそんな所に立っているのかは分からないけど、調味料を生成するのに問題があるわけでもないしね。
私はそんなことを考えながら、前世で行った旅行先の記憶を頼りにあの調味料を頭に浮かべて、【全知鑑定】のスキルを使用した。
すると、何もない所に画面が表示されて、そこにその調味料の材料が表示された。
【全知鑑定 赤味噌の材料……大豆 麹 塩】
あれ? 材料は赤味噌も普通の味噌と変わらないんだ。
前に作ったのはおそらく合わせ味噌。そして、今回作るのは赤味噌という少しだけ違った味噌だった。
私がこれから作る物を考えたとき、赤味噌の方が合うだろうと思って赤味噌の生成を試みようとしたのだが、どうやら材料は以前作った味噌と同じらしい。
それなら、多分失敗せずに作ることができるだろう。問題は、魔力の質を変えて魔法のめんつゆと同じような魔法を付加できるかどうかだ。
私は材料が表示されている画面を見つめながら、前世で旅行先に言った時に食べたあの味と香りと舌ざわりを思い出して、赤味噌のイメージを固めていった。
そして込める魔力は以前に味噌を生成したときよりも少し重い感じで、めんつゆを生成したときの魔力の質と量に似せていく。
そうして、魔力を込めながら赤味噌を形作るイメージを強めていくと、小皿が光ったのが分かった。
光が収まってからそれを覗き込むと、そこには普通の味噌よりも赤みがかった茶色をした物が生成されていた。
「よっし、後は魔法がどうなっているか……」
材料は前に味噌を作ったときと一緒だったので、味よりも先に魔法のめんつゆと同じ魔法が付加されているか気になって、私はそのまま生成されたそれをじっと見て【全知鑑定】のスキルを使用した。
すると、先程まで赤味噌の材料が書かれていたはずの画面の文字が変わり、そこに鑑定結果を表示された。
【魔法の赤味噌……日本の赤味噌を模して作った物。付与効果 治癒魔法中 滋養強壮中】
「やった。魔法の方も問題ないみたい」
そこに表示された付加された魔法は、以前にめんつゆを生成した時と同じ物だった。
ということは、これでめんつゆのように赤味噌を使っても問題ないということになる。
あとは、みりんを生成すれば調味料は揃ったことになる。
私は久しぶりに食べることができるあの味を思い出して、静かに口元を緩めていた。
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