第58話 お出迎え
そんなこんなで馬車移動と料理を繰り返しながら、私たちはシニティーにたどり着いたのだった。
シニティーの街の雰囲気は少し前までいたエルランドとあまり変わらないようで、ただ距離を移動しただけみたいな感じがあった。
それでも、何となく街の雰囲気が明るくないのは、ポイズンモスの被害を受けてまだ間もないからかもしれない。
私たちは冒険者ギルドを覗く前に、ケミス伯爵の屋敷に向かうことにした。
見ず知らずの実績もよく分からない子供が炊き出し手伝います! というよりも、領主様の体調を回復させた料理人っていう肩書きの方が絶対にことが上手く進む。
それに、エリーザ伯爵に馬車や旅費やら色々出してもらったのに、ケミス伯爵を後回しにするというのもあまりよくないだろう。
そんな感じで馬車をケミス伯爵の屋敷の方に走らせてもらっていると、徐々にケミス伯爵の屋敷が見えてきた。
ん? なんか屋敷の前で使用人みたいな人たちが立っている気がするんだけど、何かあったのだろうか?
私たちが乗っている馬車が屋敷の門の前まで行くと、その門が開かれて私たちが乗った馬車はそのまま屋敷の前で停止した。
御者の方に言われて馬車から下りると、そこには先程屋敷の前に並んでいた使用人らしき人たちが私たちに頭を下げていた。
え? これは一体どういうこと?
「お待ちしておりました。アン様、エルド様。わざわざシニティーまでお越しくださりありがとうございます。旦那様がお待ちですので、客間に案内させていただきます」
「え、は、はい」
思ってもいなかった歓迎のされ方を前に、私は驚いて固まってしまった。
そう言えば、エリーザ伯爵が話を通しておくと言ってくれていたけど、何をどうしたら平民の私たちがこんな扱いを受けることがあるんだろうか。
そんな客人みたいな丁重な扱いを受けながら、私たちはケミス伯爵の屋敷へと迎え入れられたのだった。
「おお、よく来てくれた。あなた方がエリーザ伯爵や冒険者たちの命を救ったという、奇跡の料理人の方々か」
「い、いえ、そこまでの者ではないです」
客間に通された私たちは、さっそくケミス伯爵の正面に座らされてお茶まで出されるという待遇を受けていた。
それに、なんか凄腕料理人みたいな異名みたいなのも付いてたので、私は反射的にその言葉を否定してしまっていた。
エリーザ伯爵、私たちのことをどうやって伝えたのだろうか?
奇跡の料理って、尾びれ背びれどころの騒ぎじゃない気がするんだけど。
そんなことを言ってきたケミス伯爵は、エリーザ伯爵と同じくらいの40代くらいの男性だった。茶色の髪を後ろでくくっていて、綺麗な顔立ちをしている。
しかし、頬の少しこけた感じだったり、肌が健康的な色をしていていない所をみると、まだポイズンモスの毒の後遺症のような衰弱状態が続いているのだろう。
「厨房にある食材は好きに使ってくれて構わない。もしも足りない場合は使用人に言ってくれたら、可能な限り何でもそろえることを約束する」
「そ、そんなにしてもらわなくても平気ですよ」
なんかやけにハードルが上がってしまっている気がしたので、私はなるべく低姿勢でいってそのハードルを下げるようとしたのだが、ケミス伯爵にはただ優しい笑みを返されただけだった。
……どういしよう、ハードル上がった状態で料理しないとなのかな。
少しだけ気まずさを覚えた私が視線を逸らしたとき、何かどこからか見られているような気がして、私は部屋の中をぐるっと見渡してみた。
あれ? どこからか視線を感じるような気がしたけど、気のせいだったかな?
一瞬感じた視線の正体が何だったのか分からないまま、私はまたケミス伯爵の話に耳を傾けたのだった。
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