フェンリルに育てられた転生幼女。その幼女はフェンリル譲りの魔力と力を片手に、『創作魔法』で料理をして異世界を満喫する。

荒井竜馬

第1話 人間との遭遇

 森の中をお父さんと歩いていた。


 近くの街から南方にある魔物が生息する森の奥、通称『死の森』。


 森から発生している霧に誘われて迷い込んだら最後、帰還することは難しいと恐れられている森だ。


 近くの街にいる冒険者たちが入ってくるにしては、魔物レベルが高く誰も近づこうとはしない魔物の巣窟。


 そんな凶暴な魔物が多く生息する場所で、私はお父さんと共に歩いていた。


 私達親子が森を歩いている所に、自ら姿を見せる魔物は少ない。


 理由は単純で、私たち親子を相手にして勝てる魔物が限りなく少ないからだ。


だから、『死の森』と恐れられている森の中でも問題なく生活を送ることができているのだ。


 いつものように森を歩いていると、【魔力感知】に反応があった。


 ここから遠くない距離にある魔力。『死の森』と言われている森にやってくるとは、どんな命知らずなのか。


 私は口角を上げながら、隣にいるお父さんに目配せをした。


『おとうさん、こっちに強い魔力の反応があります』


『そうだな。まぁ、恐れるに足りぬが……少し厄介そうだ』


『厄介そう?』


 隣にいるお父さんの顔を窺うと、少し気まずそうに顔を逸らされてしまった。


 そういえば、何度か似たような気配を前にしたときにお父さんはいつも退いていた。


 魔力で負けているとは思えない相手だというのに、いつも理由を深くは話さずに森の奥へと引き返すのだ。


 お父さんがこの魔力の持ち主に負けるはずがない……そうなると、やっぱり私のことを気にして撤退をしようとしてくれているのだろう。


 いつまでもお父さんの足を引っ張っているという自覚はあった。私が子供ということもあるが、誇り高きお父さんにこれ以上撤退させるのは嫌だった。


『おとうさん。それなら、私がこの魔力を持つ者を狩って参ります!』


『いや、やめておけ。一旦、森の奥に引っ込むぞ、アン。――アン?』


 私は【魔力操作】をして魔力を一時的に潜めて、勢いよく駆けだした。


 多分、不意を突かれたお父さんはしばらく私のことを見つけられないだろう。それだけ、私の【魔力操作】が上手くなっているということだ。


『アン! 戻れ、アン!!』


 後方で聞こえてくる言葉をそのままにして、私は先程感知した魔力を持つ者に向かって走っていった。


 初めて対峙するような魔力の持ち主だけど、私が負けるはずがない。


 どうやら、相手は私が近づいていることに気づいたらしく、その魔力はピタリと止まって私を迎え撃とうとしているみたいだった。


 上等だ。私が負けるはずがない。


 私は地面を強く蹴ってその魔力の持ち主の目の前に飛び出して、大きな唸り声を上げた。


「くっ! なんてすごい威嚇……ん?」


 私の前にいるのは二足歩行をしている魔物。オークを小ぶりにしたような体躯で、その顔つきと体のラインはまるで別のものだった。


 妙に整っているその顔は魔物とは大きく違う生き物のようで、頭部にのみ藍色の毛が生えている。


 そして、こちらに向けている武器と防具は妙に精巧な造りをしていた。


……体は魔物にしては大きくはない。その割に武器と防具は見たことがない鋭く、頑丈そうだ。


頭脳に特化している種族だろうか?


 どんな攻撃をしてくるのか分からない。まずは、様子見か。


 私はいつでも攻撃をよけられるように手足で地面を強く掴んで、臨戦態勢に入った。


「……なんで幼い人間の女の子が威嚇してるんだ?」


 二足歩行の魔物はそっと武器を降ろすと、そんな言葉と共に急に殺気を消したのだった。


 あれ? 戦う流れじゃなかったの?


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