時空シール6
鷹山トシキ
第1話 潜入任務
山村と島は京の八木邸の近くにやってきた。平間から経緯を聞いていた山村は、平間を土蔵に匿っておいた。岡田以蔵、大久保利通、伊東甲子太郎、赤禰武人とは既に会合を済ませてある。
「この腐りきった世の中を変えんといかんぜよ」
大久保邸で以蔵は言った。
以蔵は土佐国香美郡岩村(現在の高知県南国市)に、二十石六斗四升五合の郷士・岡田義平の長男として生まれた。弟に同じく勤王党に加わった岡田啓吉がいる。
嘉永元年(1848年)、土佐沖に現れた外国船に対する海岸防備に、父・義平が郷士として従事した記録が残る。それ以後城下の七軒町(現在の高知市相生町)に住むようになった。
武市瑞山に師事し、中西派一刀流の麻田直養に剣術を学ぶ。安政3年(1856年)9月、瑞山とともに江戸に出、桃井春蔵の道場・士学館で鏡心明智流剣術を学ぶ。翌年9月、土佐に帰った。万延元年(1860年)8月より、時勢探索に赴く瑞山に従い、同門の久松喜代馬、島村外内らと共に、中国・九州で武術修行を行う。途中、以蔵の家が旅費の捻出に苦労するだろうと武市が配慮し、豊後岡藩の藩士に、以蔵の滞在と藩士江戸行の便への随行を頼んだ。武市と別れた以蔵は、岡藩で直指流剣術を学んだ。文久元年(1861年)5月ごろ、江戸に出て、翌年4月土佐に帰った。その間の文久元年(1861年)8月、武市の結成した土佐勤王党に加盟。文久2年(1862年)6月、参勤交代の衛士に抜擢され、瑞山らと共に参勤交代の列に加わり京へ上る。
土佐勤王党が王政復古運動に尽力する傍ら、平井収二郎ら勤王党同志と共に土佐藩下目付の井上佐市郎の暗殺に参加。また、薩長他藩の同志たちと共に、安政の大獄で尊王攘夷派の弾圧に関与した者たちなどに、天誅と称して集団制裁を加える。越後出身の本間精一郎、森孫六・大川原重蔵・渡辺金三郎・上田助之丞などの京都町奉行の役人や与力、安政の大獄を指揮した長野主膳の愛人・村山加寿江の子・多田帯刀などがこの標的にされた。村山加寿江は橋に縛りつけられ生き晒しにされた。このため、後世では「人斬り以蔵」と称され、薩摩藩の田中新兵衛と共に恐れられた。
なお、一般的に「幕末の四大人斬り」と呼ばれる者たちはみな、後年の創作物によって「人斬り」の呼び名が定着したものであり、以蔵は同時代の同志から「天誅の名人」と呼ばれていた(ただし、以蔵は文久2年〈1862年〉10月12日、幕府に攘夷を迫るため、京を出発した勅使一行に加わって、副勅使姉小路公知の護衛を務め、10月28日から12月7日まで江戸に滞在しており、11月15日に起きた多田帯刀殺害には関わっていない)。
以蔵は瑞山在京時の文久3年(1863年)1月に脱藩して江戸へ向かい、2月より高杉晋作のもとで居候になる。3月に高杉が藩の命で京へ赴くと、以蔵も京に滞在。同時期に高杉からの6両の借金を、勤王党員の千屋菊次郎が代わりに返済している。同志と疎遠になった後は、一時期坂本龍馬の紹介で勝海舟の元に身を寄せたが行方知れずになり、後述する洛中洛外払いの際は脱藩者であることから無宿者として処断されていた。その後、八月十八日の政変で土佐勤王党は衰勢した。
元治元年(1864年)2月、商家への押し借りの科で犯罪者として幕吏に捕えられ、5月に焼印・入墨のうえ京洛追放処分になり、同時に土佐藩吏に捕われ、土佐へ搬送された。
土佐藩では吉田東洋暗殺、および京洛における一連の暗殺に関して、首領・武市瑞山を含む土佐勤王党の同志がことごとく捕らえられていた。以蔵は女も耐えたような拷問に泣き喚き、武市に「以蔵は誠に日本一の泣きみそであると思う」と酷評されている。間もなく以蔵は、拷問に屈して自分の罪状および天誅に関与した同志の名を自白し、その自白によって新たに逮捕される者が続出するなど、土佐勤王党の崩壊のきっかけになる。以蔵の自白がさらに各方面へ飛び火することを恐れた獄内外の同志によって、以蔵のもとへ毒を差し入れる計画まで浮上したが、瑞山が強引な毒殺には賛同しなかったこと、以蔵の親族からの了承を得られなかったこともあり、結果的には、獄の結審に至るまで毒殺計画が実行されることはなかった。慶応元年(1865年)閏5月11日に打ち首、獄門となった。享年28。
ボスの大久保利通から新選組に潜入するよう山村たちは命じられた。山村は彼に陰気な印象を持った。
「彼には逆らわない方がいい」
島が耳打ちしてきた。
寡黙で他を圧倒する威厳を持ち、冷静な理論家でもあったため、面と向かって大久保に意見できる人は少なかった。「人斬り半次郎」の異名を持つ桐野利秋(中村半次郎)も大久保に対してまともに話ができず、大酒を飲んで酔っ払った上で意見しようとしても大久保に一瞥されただけで気迫に呑まれていた。
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