凌駕とオレ 腹違いの双子?笑

MICHIO'Z BLOOD

第1話闇堕ちし夜

6月6日

満月だと言うのに幬が降りて尚灰色の空が辺りを不気味に彩る


暗い部屋の中央で啜り泣く塊がある

手塚秀雄

54歳を4ヶ月程過ぎている

妻が居るのだが別居中なので

自宅にはひとりきり

嗚咽が響き渡る


男の兄が莫大な借金を抱えているのを

今日の夕方

兄の会社の社長から聴かされた


秀雄も薄々は感付いていたのだが

身内故にあるはずがないと

高を括っていたのだ


七年程前に精神疾患を発症し

常に心が不安定で

躁状態と鬱を行き来していた

矢先の真実に成す術も無く

込み上げる嗚咽が咆哮に変わるのも

時間の問題だった


床のスマートフォンが光り

軈て震えだす


表示は凌駕


秀雄は左手でスマートフォンを取り

相手を確認した後に通話ポタンを

スワイプした


あっもしもし秀雄?俺だけど…


凌駕は気配で秀雄の状態に

気付き押し黙る


鼻を啜る音だけが部屋に響く


おい!どうしたよ?

秀雄?おい!



すぐ行くから待ってろ!


凌駕はそう告げると電話を切る


秀雄の耳にはツーツーツーと

通話の終わりを告げる音が聞こえている


スマートフォンを床に放り投げ

先程と同じ姿勢に戻った



ガチャッ

玄関のノブの音がして開く

開けたのは凌駕


お邪魔します!


靴を脱ぎ捨てずかずか中に入り

辺りを見回し何かを探している


ある部屋に入るとすぐに

中央の塊に気付き近づく


おい!

秀雄?…どうし…


言葉を切る凌駕


秀雄の身体が小刻みに震えているのを

確認し口を閉じたのだ


秀雄の左肩にゆっくり手を置く凌駕


床にメモ書きが丸めてあり

凌駕がそれを確認する


暗くて読めねぇな


そう言うと部屋の明かりを灯す


電灯が瞬き蛍光灯特有のジジジという

音が聞こえメモ書きを読み進めると


あんの野郎チッ


そこには詳細が書かれていて

事の内容を把握するのに

時間はかからなかった


秀雄?

奴は俺が殺す!

良いな!


そう言うと凌駕は部屋を出ようと

立ち上がりかけたその時…


秀雄が凌駕に抱きついた


駄目!


呆気にとられた凌駕は優しく囁く


ひでお?

おれさぁまえからおもってたことあって

いまだからいうけどあいつはげすだって…

だからいかしておくわけにはいかねぇ

ひでおのためにも、ねぇわかる?


オレなんかの為にひっく

凌駕が悪に手を染めるなんて

絶対駄目!

そんなんしたら絶交だかんね!


えぇぇぇ~くっわかった…

わかったよ!んもぅお前ね

何処まで優しいのさ♪

けどなこのまんまじゃ俺の気が

収まらねぇのよ?わかるかい


それはぁ…


言葉を飲み込み俯く秀雄

床にぼたぼた涙が落ちる


そうだ!

お前俺と一緒に働け!

なっ良いだろ?

もう屋号もあるし、な?


えっいいのかよ?


秀雄が泣きながら微笑む✨


良いに決まってんだろうがよへへへ


そう言うと凌駕は秀雄をがっちりと

抱き締めた、壊れんばかりにきつく


秀雄は凌駕の耳許で


宜しく頼むねへへへ

と言い凌駕を抱き締めた


ばっと身体を引き剥がして

凌駕が叫んだ!


そうと決まれば明日から働くぜ!

秀雄は営業兼技術職兼整備士な!


オレそんなにやるのかよ!

お前は何するのさ


あぁ俺か?

俺は代表取締役ね

あっはっはっはっはぁ


そんだけかよチッ


ふたりは向かい合い御互いに

また抱き合うのだった…


こうしてまたふたつの人生が

螺旋のように絡み合う

この後

更に極悪な事が待ち受けているのを

この時のふたりは知る由もなかった










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