005 『賢者』エレナとの再会 Ⅰ
「うぉ、お前一人で森に行って生きてたのか?」
「まぁな」
城塞都市エグゼスへ帰還した俺は顔見知りの門番の驚愕に、肩を竦めて言葉を返し、門を潜る。
真っ先に行く場所は冒険者ギルドだ。
毒煙玉や探索の装備などを購入したために資金の多くを消費していた。
今後も快適な宿屋生活を過ごすためにも『アイテムボックス』の中身を売却する必要があった。
(どれぐらいで売れるか。結構いい感じに採集できたはずだが)
俺自身に『鑑定』スキルはないものの、帰還途中で手に入れた採取品の価値に関しては薬草辞典などから得た知識で把握している。
頭の中で算段を立てながら冒険者ギルドに到着。そして依頼掲示板へと向かう。
「あー。これと、これかな? あとこれもいけるか」
すでに夕刻を過ぎて夜間だが、常設依頼として常に貼られている依頼票を俺は掲示板から剥がし、認識票でもあるステータスデバイスをかざし、依頼を受理させる。
そうしてから、いつも使っているギルドの受付に向かえばそちらではないと言われてしまう。
「エドワードさん。依頼品の納入ならこちらのカウンターへどうぞ」
名前を呼ばれ、足を向けた先にはニコニコ笑顔の受付嬢がいた。
受付嬢のマリー。俺が自主的な追放後に常駐している、市北ギルドにおける顔見知りの一人だ。
「あー、そういえばそうだったな」
市壁警備ぐらいしかやってなかった俺だが小遣い稼ぎに薬草採取とかも受けていたので、こちらの納品専用のカウンターも利用はしたことがあった。
あまり使わないから頭から抜けてはいたのだが。
「じゃあ、この依頼の処理を頼むよ」
ステータスデバイスに表示させた依頼票のデータを、マリーがかざしたギルド端末と交換する。
そうして俺が『アイテムボックス』から依頼品を次々と取り出していくと、マリーが驚いたように目をパチパチとさせた。
「ええっと、エドワードさん。『アイテムボックス』を覚えたんですか? 『商人』や『運び屋』に転職は……してないですよね」
「ああ、ダブルジョブの恩恵だよマリー」
『賞金稼ぎ』『ハッカー』のダブルジョブ編成はすでにステータスデバイスを通じてギルドにはバレている。
だから、こうして受付嬢などには俺のジョブがどういったものかは知られている。
俺の顔面偏差値は自分で誇れるぐらいには良いので、にこりと笑顔で答えてやればマリーは頬を照れで赤く染めながら、そ、そうですか、すごいですねさすがダブルジョブです、と褒めてくれる。
(ジョブを二つ持つぐらいは、珍しいっちゃ珍しいがないこともないんだよな。条件が条件だが、意図せずとも達成する人間は出るだろう)
ただ俺のように、強烈なシナジーを生むジョブの組み合わせを取得できたものは稀なはずだ。
この世界に攻略サイトはなく、また単体のジョブ性能だけならともかく複合ジョブの情報を共有できるような教育機関もない。
もちろん俺がやったこと。やっていくことが世間に知られていけば偉業と認識されるだろうが、現時点の俺がわざわざそれを口にすることはない。
だから、知っているマリーは当たり前のように俺をすごいものとして認識しているし、こうして口に出して褒めてもくれる。
まだまだ都市での立場の弱い俺はあまり目立ちたくないな、と思いつつも称賛を受け続けた。
それは名声のデメリットよりも、コネを重視した結果だ。
ギルドの受付嬢は都市の市民階級の中でもエリートの側だ。
如何に前世があろうとも俺はこの世界では農村出身で、ついでに言えば職業付与の儀式で世間体の悪い『賞金稼ぎ』を選んでしまっている。
だから職業付与の前に築いてきたコネであるところの、それなりに多くの、そして地位のある人間たちから見切りをつけられてしまっていた。
今後を考えれば、こうしてコネの構築のために自分の値段を高め、知るべき人間に知らせていくのは悪いことではなかった。
それにマリーほどの美人に手放しに褒められれば、良い気分にもなる。
とはいえいつまでも雑談をしているわけにもいかないし、さすがにやり手の職員であるマリーは俺が話しながらも『採取』スキルで綺麗に採取した薬草などを手に取って、確認作業を行っている。
次々と俺が渡していく採集品を『鑑定』スキルが付与されたモノクルの魔道具で名称や品質を確認し、マリーは「はい。確認しました。依頼達成ですね。こちらの品はどれもギルドで薬草見本にしてもいいぐらいの出来ですよ。流石はエドワードさんです」と称賛した。
採集は『職業英雄』のゲーム時代に一万回以上はやったからな。手慣れたものだ。
「ありがとうマリー。ああ、そうだ。森でモンスターも倒したんだ。ドロップ品の売却をしたいんだが、ここでも大丈夫かな?」
「ええと『アイテムボックス』持ちになったんですよね。それならこちらの依頼カウンターではなく、この買取表を持って解体所に行ってください。そちらで解体と査定が終わったら買取表を持ってきていただければ買取代金の支払いが行われますので」
さすがに死体そのままをここで出すわけにはいかないのだろう。
木製ボードに紙を貼り付けた買取表なるものを手渡され、俺は「ありがとうマリー」とその手を軽く握ってスキンシップを行いながらギルドの買取所に向かうのだった。
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