004 森の探索2 Ⅲ
「おお、おぉおおおお。やっと、やっと出たぁ……」
栗鼠を狩り始めて十時間。森の中層で早朝から始めた狩りはようやく成果を上げていた。ちなみに一ヶ月かかったマイマイより取得が早いのは幸運栗鼠狩りは壁付近に拘束させられる市壁警備よりも自由に動けるので試行回数が多いからである。
それに幸運栗鼠は少し見つけるのが面倒なだけで、マイマイの幼体のようなレアモンスターでもなんでもないありふれたモンスターだ。
「はー、幼スキルじゃないのが残念だが、もうなんかそれを忘れるぐらいに嬉しいわ」
なお入手したスキルは現在の俺の状況を解決するのに、すごい都合が良い。
俺が背後を見れば地面に転がった背嚢からは幸運栗鼠の毛皮がはみ出ていて、それと昼食の休憩ついでに栗鼠皮をつなぎ合わせて作った袋にもパンパンに栗鼠の毛皮が詰まっていた。
これは価値的には捨ててもいいが、流石に殺した栗鼠に悪い気がして捨てられなかった毛皮だった。
「ようやくこの邪魔なものを始末できるぜ」
俺は栗鼠以外にも遭遇したモンスターの――ゴブリンやコボルトなどの敵対モンスターだ――討伐でレベルアップし、溜まっていたスキルポイントを使ってセットできるモンスタースキル枠を五つに拡張すると、幸運栗鼠から手に入れたスキルを早速セットし、発動させた。
「『アイテムボックス』」
スキル発動に際し、MPが消費され、空中に奇妙な穴が発生する。
俺がそこに栗鼠皮や栗鼠からドロップした高値で売れる木の実を入れていけば、それらのアイテムは穴へ吸い込まれて消えていった。
――『アイテムボックス』。
ウェブ小説主人公御用達、三種の神器的なスキルの一つである『アイテムボックス』様だ。
(三種の神器、残りは『鑑定』と『テイム』か? 『テイム』は人によって違うというかもしれないけど。あとは『ヒール』とか『ガチャ』とか『通販』あたりも候補かも?)
ちなみになぜ『アイテムボックス』を幸運栗鼠が持っているかと言えば、幸運栗鼠の頬袋には無限の木の実が詰まっている、とかそういうなんかふわっとした設定でテイムした幸運栗鼠に取得させることのできる便利スキルだからである。
だから、そういう理由もあってか野生の幸運栗鼠もたまに取得していたりするスキルだった。野生の幸運栗鼠が活用している姿を見たことはないが。
とはいえ、持っている以上、こうして『賞金稼ぎ』『ハッカー』に序盤のスタートダッシュのために乱獲されるハメになっているのである。
「あとは『アイテムボックス』の幼スキルが手に入れば完璧だな」
成体の幸運栗鼠から手に入る完品の『アイテムボックス』はそれなりに容量が大きいが、本格的にダンジョン探索などをすると全く大きさが足りないので子栗鼠狩りで成長可能な『アイテムボックス(幼)』を手に入れ成長させるのは急務だ。
「でもまぁ今日はこれで終わるか」
背嚢いっぱいに詰め込んできた毒煙玉はほとんど使い切った。
それに加えて、肉体を鍛えている俺がスキルを複合使用して森歩きの効率を上げても今日の狩りは疲れるものだった。
たぶん主に精神的疲労のほうが大きかったかもだが。『魔石ハック』の結果に一喜一憂してしまったせいだろう。
ゲーム時代はカットできていたこれらの雑な感情が俺の冒険効率にこういった支障を来たしていくのは現実化した不具合なんだろう。
ゲームだから遊べた。ゲームだから無視できた。ゲームだから……――ここが現実であるがゆえにそれら発生しては俺を悩ませる
「陽も暮れてきたな」
木々の切れ目から空を見れば陽が落ち始め、森を闇が覆おうとしていた。
チートな攻撃手段のある俺でも、今のレベルで夜の森に居座ろうとは思わない。
(深層じゃないとはいえ、夜になってやばいモンスターが出ても怖いからな)
防御貫通スキルである熔解があるから、強敵とエンカウントしても手も足も出ずに絶対に殺されるわけではないが、それでも現在の俺のレベルからすると出会いたくないモンスターは多い。
今の拠点である城塞都市エグセスは『職業英雄』のストーリー序盤の都市だが、俺がこの世界の基準設定になっているだろうと予想している『職業英雄』のフリーシナリオモードは難易度が死にゲーで覚えゲーだ。
序盤の主人公様でも対処可能なモンスターだけが出現するわけではない――と俺は思っている。
(まぁそれが現実って奴だよな……)
この世界の主人公がどこの誰さんかは知らないが、世界は俺のために回っているわけではない。
俺とて油断すれば死ぬ。当たり前のことだ。
「……帰るかぁ」
『アイテムボックス』に今回の成果を詰めて身軽になった俺は『冒険』スキルが持つ方位感知機能に従って、都市に向かって帰還するのであった。
ついでに『追跡』スキルを『採取』スキルに切り替え、手軽に採取できる森の恵みなんかをささっと採取しつつ。
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