004 森の探索2 Ⅱ
「やっぱ、『熔解』はチートだよな」
『熔解』スキルは魔法スキルではなく物理スキルである。防御判定に算出される数値は精神力や属性防御ではなく防御力だった。
しかしどれだけ防御力が高かろうが飛沫は皮膚で止まらない。
なぜなら『防御力
ゆえにこそ『職業英雄』ユーザーの間で『熔解』スキルは、ストーリーで戦う魔物の王たる魔王を殺した勇者の聖剣よりもよっぽど凶悪なスキルだと認識されていた。
というか、このスキルの存在が許されていたのはノロノロ動くマイマイが所持しているからであって、敵が俺のように器用に素早く扱ってきたらユーザーたちがリアルに開発陣ぶっ殺してただろうぐらいには理不尽の塊スキルなのだ。
(まぁ、とはいえ今の俺の使い方だと、メインストーリーレベルの敵にしか通用しないけどな)
肉体から離した水滴とか『念動』や『操水』持ち相手には自殺行為にしかならない。
発生時こそ自分のスキルゆえに無傷でいられるが、一度体から離した熔解液を利用されると俺だって普通に死ぬし、あとは今のやり方は所詮、水滴レベルの大きさの飛沫を飛ばしているだけなので実は土魔法の土壁とかでも防御可能だったりする。
それに相手が耐久特化型ならHPで耐えて、喰らったら即座に回復スキルか再生スキルで傷を癒やすだろう。
そしてカウンターで俺を殺しにくる。
というわけで冒険者生活のスタートダッシュをこのスキルに捧げた以上、スキルをきっちりと育てて、更に凶悪化させる必要があるわけなんだが――「ちッ、所詮はゴブリン、ゴミスキルだったな」
ゴブリンから手に入れた魔石が全部砕けて地面に転がった。
あわよくば『鑑定』スキルでも持ってないか『魔石ハック』でスキルを取得してみたが、手に入ったのは全てがコモンランク――この世界ではなく攻略サイト基準――のスキルだ。
せめて生産スキルでもあれば――なお生産スキルを狙うならゴブリンよりコボルト――よかったんだがそれすらなく、ダブったスキルもあったが魔石ハックではスキルをダブらせたところでスキルの合成はできないので熟練度が上がったりとかはしない。
成長可能なスキルならダブっても育成方針を変えれば差別化できるものの……――まぁ、ゴブリンだしな。
(ガチャみたいだからやっちまったけど)
冒険者活動に必要な基本的なスキルは市壁警備のときに揃えてあるから、次からは通常ゴブリン程度の魔石はとっておいて売るべきだな。
今回の成果である幸運栗鼠の毛皮だって希少価値のない小動物の毛皮だからそこまで高く売れないし、序盤の金策は大事だった。
なお、俺が簡単に狩りまくっていることからわかるように、幸運栗鼠こそ縁起物のように見えるが、この都市の周辺では害獣認定されるほどに一般的な小動物モンスターである。
(攻略サイトでの序盤のおすすめテイムモンスターの一匹に入ってるぐらいには遭遇率が高いうえに、処理も簡単だからな)
サポートモンスターをテイムするためにサポートメンバーを揃えなくちゃならないぐらい攻略難易度も高いとかだったら、初心者はテイムを諦めるしかない。
さすがにそんなモンスターはおすすめされない。
「だから素材も安いんだけどな」
俺は頭の中で手に入れた素材の処理を考える。
(手に入れた大量の毛皮も一枚一枚が小さくて薄いからな。せめて『皮革加工』スキルや『裁縫』とかで加工すれば売値もそこそこ高くなるんだが)
とはいえ、たかが幸運栗鼠の毛皮にそこまでする価値があるのかと言えば疑問ではあった。
貴族や商人に個人的に伝手があるならともかく、手間暇かけてコートだのなんだのを作ったところで売り先が冒険者ギルドなら売値はそこまで高くはならないだろう。
というか冷静に考えるなら職人の手を経ていない怪しげな『賞金稼ぎ』の作品だ。
同じ重さの毛皮素材の方が売れるまであるかもしれない。
(上手く作ってスキルを付与すれば違うかもしれんが、そういう品なら自分で使いたいよなぁ)
ただそこまで生産スキルを鍛えるなら、奴隷でも買ってそいつにやらせたかった。俺は同じ時間を使って戦闘スキルを鍛えたいし。
(ま、スキルドロップはこういう
いろいろと現実化したことでのダルさはあるものの、前世で遊んだ『職業英雄』のスキルドロップ狙いマラソンは、ハクスラゲー大好きにはたまらない要素であった。
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