003 森の探索1 Ⅱ



 ――スキル『強烈栗鼠噛みつき』を取得しました。


「ちッ、まーた糞スキルさんかよ」

 『魔石ハック』で手に入れたスキルを『ステータスデバイス』で確認してため息を吐いた俺は、スキルを取得したことで砕けた魔石の屑を森の中にばらまいた。

 最初に幸運栗鼠を狩ったときからだいぶ時間が経過している。幸運栗鼠から狙うスキルは二つあるが、まだ手に入る様子はない。

 城壁マイマイのときと同じように幼体スキル狙いではあったが、最悪、成長不可能な通常スキルでもよかった。

 とにかく今回に限って言えば所持・・しておくことが重要なスキルだからだ。

 幸運栗鼠から取得した毛皮と、栗鼠の頬袋に入っていた木の実を詰め込みパンパンになった背嚢を担いで俺は移動する。

 今回俺が背負ってきた背嚢は二つ。

 一つは中身が貯蓄をほとんど使って購入した大量の毒煙玉だ。狩りの度に消費しているからか、それなりに軽くなっている。

 ちなみにだが、栗鼠のドロップアイテムは毒で殺しているので栗鼠の肉は毒で汚染されているし、骨や牙は工芸品の加工素材にしか使えないので売却額が安値なので放置している。売れるのは毛皮、魔石、木の実だけで魔石は俺が取得するたびにハッキングして砕いていた。

「もうちょっと効率を上げたいが……」

 難しいか――俺は自身のつぶやきに否を出した。

 『鑑定』スキルがあれば狙いのスキル持ち栗鼠を殺害して、その魔石からスキルを狙って取得できるのだが、残念なことに『ハッカー』のスキルツリーでは『鑑定』はそこそこ深い部分に存在する。

 毒煙玉で幸運栗鼠を倒し続けてレベルアップし、多少のスキルポイントを手に入れたが未だに取得はできない。

 とはいえポイントはあっても『鑑定』を取得する気はなかった。

 『魔石ハック』持ちである俺なら『鑑定』が存在するスキルツリーの枝にポイントを振って『鑑定』スキルを取得するよりも、『鑑定』持ちモンスターを殺して奪った方が早いのである。

 とはいえ、その『鑑定』持ちに出会う確率はそう高くないが。

(そもそも低熟練度の『魔石ハック』が問題なんだよな)

 『魔石ハック』を使って魔石からスキルを取得しようとすると、頭の中に『?????……成功率54%』『??……成功率23%』『????……成功率11%』と取得可能スキルが並ぶ。『魔石ハック』はそれらから一つを選んで取得するのである。

 そして狙いのスキルはわかっているのでゲーム時代に取得した文字数のスキルを選んでやっているが、さっきの『強烈栗鼠噛みつき』のような外れを引く確率も多かった。

「やっぱり『鑑定』は必要か? だがううむ、『鑑定』はたまーにゴブリンマジシャンが覚えてるんだがな」

 人型モンスターであるところのゴブリンやコボルトは有用無用問わず雑多なスキルを覚えていることが多い。

 それ自体は宝くじみたいで面白いのだが、あまりにも雑多すぎるために狙って『鑑定』を出すには不向きなモンスターたちだった。

(確実にゲットしたいならダンジョンに行った方がいいんだが……それだと本末転倒だしな)

 ほしいのは幸運栗鼠のスキルなので、ダンジョンに行ってはここまで来た意味がなくなってしまう。

 もちろん幸運栗鼠から狙いのスキルを手に入れられたなら鑑定狙いゴブリンマラソンとかやってもいい。だからこそ、まずは栗鼠が先であった。

「諦めてのんびりやるしかないかぁ? はぁ、ギルドで植物図鑑読んできてよかったぜ」

 栗鼠から手に入れた木の実も本来のゲームでは『狩人』や『ドルイド』が持つ『植物鑑定』や『植物知識』を使って調べる必要があるのだが俺は今回、ギルドの植物図鑑を熟読してきている。

 小腹が空いたのと荷物になるから消費したい気持ちで、植物図鑑から得られた知識で食べられることがわかった木の実をむしゃむしゃと食べ、乾いた口の中に生活魔法で生み出した炭酸水――俺が作った炭酸水生成魔法だ――を流し込む。

 そんなことをしていれば、『冒険』スキル内の探索スキルが敵の反応を捉えた。

「ん……ち、ゴブリンか。幸運仕事しろ幸運」

 スキル狙いで栗鼠を狩りまくっているため、ドロップに幸運値Luckを上げる木の実がいくつか出ており、それを食べて幸運を上げたはずなのだが、ゲーム時代と同じようにモンスターの遭遇に幸運は効果がないらしい。

 栗鼠を探して森を歩く俺に向かって、木々の隙間からゴブリンの群れが強襲してくる。

 人間えものを見つけてケケケ、とニヤニヤ嗤う緑色の皮膚の怪人たち。そんな彼らの手が握りしめるのは錆びた短刀や剣だった。

(森中層のゴブリン、か)

 マイマイや栗鼠を殺しまくったものの、幼体や小動物ゆえに得られた経験値は乏しく俺のレベルはそう高くない。

 加えて職業的に言えば『賞金稼ぎ』かつ『ハッカー』。本来、戦闘能力の多くを他のサポート要素に割り振るタイプの職業構成。

 順当に判断するなら同レベル帯の他の職業よりも戦闘能力は頭ひとつ低いはずだった。

「本格的に強くなれるのは第二サブ職業の開放か、高倍率な身体能力強化系スキルを得てからなんだが――」

 襲いかかってくる十数匹のゴブリン。単体ならともかく、これだけの数ともなれば俺と同レベル帯の冒険者がソロで出会ったら即座に殺される強敵。

「スキルマイセット『戦闘』」

 しかし俺は違う。

 口角を釣り上げ、殺到してくる獲物・・どもに、俺はにやりと嗤ってやるのだった。


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