『色』ショートショート(1000字未満)

@akaimachi

『色』

 2人してソファに座り、絵本を見ていた。

 大人になっても絵本というものは、心をくすぐってくれる。可愛らしい絵に、角のない言葉が、大きくなった身体でも受け止めてくれる。

 「ねぇ、見て、紅葉が綺麗に描かれてる」

 彼女が見ている絵本の中では秋らしい。赤色や橙色の葉たちが表現されているのだろう。彼女が見ているであろう目線の先を覗き込む。

「あぁ、綺麗だね」

 お互いに絵本へ視線を預け合っていた。すると、

「このセリフ、可愛い!」と無邪気な声がする。

 主人公のりすさんが仲間とどんぐりを探している場面だった。紅葉の奥で「ぼくのどんぐりが1番だ!」と宣言している。小さな動物が主張する、小さな1番が微笑ましい。

 僕らの季節も秋だった。いや、すでに冬を迎え入れているといっても遜色のないカレンダーが見える。

 でもまだ、微かに冬を受け入れたくはない。それでもかげった陽に寒さを覚える。

「ねぇ、何か飲む?」

 きっと少し暖かさを求めたのだろう。

「そうだね。あったかいの、飲みたいね」

 見ていた絵本を一旦閉じて台所へ2人で向かう。

 何がいいか、話し合いながらケトルでお湯が沸くのを待っていた。僕は紅茶、彼女はコーヒーになった。同じ色の赤いマグカップの中から、白い湯気が浮かんでくる。

「メガネ」

 その一言で彼女の笑い声が続く。

 僕のメガネが白くくもったからだろう。そんなにおもしろい状況ではないはずなのに、楽しそうに笑うからこちらもおもしろくなってしまった。

 笑い声が落ち着いた頃にメガネのくもりも取れていた。

 温かいマグカップをふたりで抱えながら、ソファーに戻り、一息つく。

「僕の紅茶は底が見えるように透き通った茶色だね」

「私のコーヒーは底を隠すように覆う茶色かな」

 僕らは色の話をよくする。今見えてる色を言葉で表現するようにしている。

 君の顔を見れば分かる。だってきっと君の見ている世界と僕の見ている世界、彩っているものは違うからね。

 さっきと同じように、続きを見るため絵本を開いた。

 「ここからかな。」

 彼女は絵を見て、次に文字を手で追っていく。

 りすさんが家に着いてどんぐりフルコースを振る舞っているシーンに変わっていた。「今日のテーブルクロスは青にしよう」りすさんが棚の前で腕を組むイラストが見えた。


「ねぇ、ねぇ

 青ってどんな色?」


『色』

 

 

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