第29話

ボイコットは結局失敗に終わった。


ゲストは一時間以上も時間が遅れてしまったことは大したことではないと言うように終始和やかな雰囲気で話し続けている。


おそらくあらかじめ話そうとしていたところを言葉を短くして、簡潔に話していた。


退屈だったが、結局話は時間内に収まった。生徒たちが拍手をして午前が終わる。


教室に戻ると昼休みになり、クラスの子たちはため息をついていた。


「なんか虚しいだけだね。ボイコットしても結局教師の権力に屈するだけで」


阿部が呟く。


「学校側が隠蔽したがっているってなにそれ」


神楽も不快そうな表情をする。


「本当なの、三村」


山崎が訊ねる。梓は頷いた。


「昨日お母さんが学校に連絡してくれた。だからお母さんから聞いた話だけど、学校側は真犯人を捜す気はないって。つまり隠蔽」


一瞬、山崎は黙った。そうして頭を下げて謝る。


「ごめん、疑って……」


「なに急に。いきなり考えを改めたの?」


「いや。さっき教師に言っていた言葉で、なんとなく三村が犯人じゃないと思い始めた。それに細谷も信用できない。そんな信用できない教師の言動に私、騙されていた。本当ごめん」


すると、他の梓に疑いをかけている子たちも山崎の言葉に賛同したのか、謝った。


「ごめん。私も三村だと思い込んでいた。というか噂が流れに流れて洗脳されていたかも」


阿部も謝る。疑ったり挑発したりしてきた子たちが、一人一人梓の前に立ち謝罪の言葉を口にする。


「謝ってくれるのはいいけど、私は傷ついたままだから。犯人と疑われて、傷つけられて、内心ぐっちゃぐちゃ。その傷、あんたたちに治せる?」


教室が再び静まり返り、生徒たちの暗い感情に飲み込まれていく。場の空気が重たいものに変わった。


「だから本当ごめん……謝っても謝り切れることじゃないかもしれないけど」


本当は許せないし、もうこの場で癇癪を起こしてものに八つ当たりしたいほど内心では怒り狂っている。だがその感情を抑え込む。


「机に犯罪者って書いたの誰」


誰も、なにも言わない。


「誰? それも教えて」


梓が言っても、結局名乗る子はいなかった。


ただひたすら、再び疑われていた子たちに謝られ、チャイムが鳴った。雪乃がやって来る。


「謝ってもらえてよかったね」


笑顔だ。雪乃は純粋に喜んでくれているようだし、疑いは梓から晴れたのかもしれないけれど、感情的なものはなにも変わらない。


重たい石みたいなものがずっと心に乗っている状態だ。


「うん、ありがとう」


緩く笑ってそれだけ言った。観察は続けよう。


あと、本当は今日謝罪されなければ、犯人は自分ではないと綴った紙を書いて、それを読み上げ、感情に訴えるつもりだった。


それをする必要はなくなったが、一応今日のホームルームで再び言ってみよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る