女神を自称する女③

「んで、あんた一体誰なんだ?」痛てっ、クソ、案の定たんこぶができてやがる。


「わっちか? わっちは何を隠そ――」「あ、ちょっと待った」「――なんじゃいきなり」


「せめて胸くらいは隠してくれ」


 そう言ってクローゼットから取り出したスウェットの上下を投げてよこす。こいつ恥じらいもなく真っ裸で胸を張るから目のやり場に困るんだよ。


「Tシャツの方が扇情的で、お主の好みじゃろうに」


「うるさいよっ。っていうか何で僕の趣味があんたに分かるんだ?」


「お主の記憶を観たからの」


「――は?」


「だから――」スウェットから長い黒髪をふぁさりと取り出しながら「この世界の基礎知識を得るためにお主の記憶を観たんじゃ」


「…………」


「なんじゃその胡散臭いものを見るような目は」


「いや、だってさ……」


「だってもくそもない。さっき言いそびれたが、わっちは神なんじゃからな!」ドヤ顔で仰け反りながら「記憶を観るなぞ造作もない」


 何だろう。見た目はすごく好みなのに、中身がイタすぎる。神って……。


「で、その自称神様は――」「自称とはなんじゃ自称とはっ」「――どうやって部屋に不法侵入したんだ? まさか神の力とやらで合鍵を作ったとか言わないだろうな」


「今のわっちでもそれくらいは簡単にできるが――」そう言って上向きに広げた右掌に見慣れたキーホルダーが付いた鍵がどこからともなく現れた。


「――は? ――え?」思わず二度見して、咄嗟に背後のテープルの上に目をやる。確かにそこにも同じ鍵が存在していた。


「実際はそうじゃない」と再び鍵を消してみせる。


 一瞬手品を疑ったが、あのキーホルダーは亡くなった母の手作りで二つとない代物だし、何よりも手際が鮮やか過ぎた。


 そんな突然のことに狼狽える僕をよそに、その女は滔々と語りだす。


「あれは酷い戦いじゃった――」

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