レイダース・トラップ⑨
あれから一時間ほど歩いたところで、待望の橋が見つかった。しっかりとした石造のアーチ橋で、そこから馬や、旅人らに踏み固められてできたであろう道が北東と、南にそれぞれ伸びている。
「う〜ん……。あっちにそれらしいのは見当たらないねぇ」
ベッキーよりも視力が良いマルティナが、南側の道を手で顔の前に
「仕方ない。それじゃ予定通り橋を渡って北東に向かうとするか」
そして更に数時間。その間の道程は、これといって特筆すべき点のないのんびりとしたものだった。ときたま軽口を言い合ったり、道端にひょっこり姿を現したウサギを「おいしそうっ」の一言で捕まえようとするマルティナを止めたり、背中に感じるずしりとした重みに思わず鼻歌がこぼれるくらいに平和そのもの。
そうこうしている内に、見覚えのある風景が見えてきて、自然と歩む速度も早足になる。あとは町から乗ってきた馬が、しっかりまだそこに居るかどうかだが、こればかりは運を天に任せるしかない。
どうか馬が盗まれたり、逃げ出したりしてませんように。胸中でそんなことを想っていると、不意にマルティナが足を止めた。
「姉さん」
普段のマルティナからは想像もできない静かな物言い。これは敵襲の合図だ。それを熟知しているベッキーは、すぐさま歩みを止めると、ブーツに仕込んだ
どこから来る? 油断なく周りを警戒する。周りは左右を森に挟まており、こちらからは見えなくても、あちらからは丸見えだろう。特に弓矢で狙われているとかなり厄介なことになるが、果たして射手は居るのか……。
「チッ、感のいいお嬢ちゃんだ」
周りを警戒して動かなくなった二人にしびれを切らしたのだろう。いかにもな風体の男が姿を見せる。それに合わせるように一人、また一人と、総勢10人の男たちが姿を現した。皆顔に下卑た笑みを浮かべ、手に長剣や、
「弓持ちは居ないみたい」背後のベッキーにだけ聞こえるような声量でそう伝える。
「了解」相棒の索敵能力の高さを信頼しているベッキーはそう返事を返す。
「アタシたちに何か用かな」
「なぁにたいした用じゃねぇよ。ちょいと俺等の腰の上踊ってほしいだけさ」
「一晩中なっ」槌矛を手にした男がそれに続き、他の男たちがゲラゲラと嗤う。
「男に興味は無いんだけどな」
「心配すんな。すぐに自分から求めるようになるからよっ」その言葉にまたもゲラゲラと嗤う男たち。
「姉さん」
「何だ?」
「もう殺しちゃっていいかな?」今度は男たちにも聞こえるように物騒なことを言い出すマルティナ。
「鎚矛のやつは最後な」
「なっ? ふざけやがってっ。おいお前らっ、あの女の手足をへし折って俺の前に連れてこい!」
「後ろのガキはどうしやすか?」
「坊主に用はねぇっ。見せしめに血祭りに上げろ!」
激昂したリーダー格の男が、唾を盛大に飛ばしながら命じる。だが彼は気付いていない。たった今自分が特大級の地雷を踏み抜いたことに。
「どぅあれが『坊主』だぁっ!?」安全ピンを引き抜き「オレは女だぁぁぁぁぁっ!」その手から二つの〝筒〟が男たちの足下に投げ込まれた。
「何だぁ?」男たちの誰が怪訝そうな声を上げた次の瞬間、
――バンッ、バンッと炸裂音が鳴った。
視界を焼き尽くす閃光。そして音響パルスにやられた男たちが、ほぼ同時に倒れ伏す。何人かは既に気を失っているようでピクリともしない。流石は〝無力化〟に特化した閃光手榴弾というところか。
「ぐあっ」「ぎゃーっ」「アハハハハハッ」そこから先は一歩的な虐殺だった。気を失っている者はもちろんのこと、辛うじて意識のある者も一刀のもとに首を刎ねていくマルティナ。その甲高い笑い声や、嗜虐に満ちた表情は、普段のそれとはまるで別人の様相で、殺すことを明らかに愉しんでいた。
「お、俺は最後、に、殺すんじゃ……なかったのか……」
「あれは嘘だ」ベッキーの持つ短剣が、鎚矛を持っていた男の喉元に吸い込まれる。
気がつけば、11人居た男たちはリーダー格の男を残して皆絶命していた。
「く、クソがっ――何を、何をしや、がったっ……」
さすがはリーダーを張るだけのことはあるということだろうか。視覚も、三半規管もやられ、まともに立つこともままならないだろうに、武器を拾おうと右手を地面に彷徨わせる。
「ぐあぁぁぁぁっ、う、腕が〜っ!」
しかし今のマルティナがそれを許す筈もなく、ヘッと嗤いながら男の右腕を斬り飛ばした。
「確か『手足をへし折って俺の前に連れてこい』だったか?」
次いで左腕を、そして両足を片方ずつ同様に切り飛ばしていく。その度に男の苦悶に満ちた絶叫が響き渡った。
「姉ちゃん」四肢を切り飛ばさたショックで絶命した男の顔をジッと見る。
「チッ、シケてやがんな」男たちの死体から金目のものを奪っていくベッキー。これではどちらが野盗なのか分からない。「どうした?」
「こいつ確か〝賞金首〟じゃなかったっけ?」
「ん、どれどれ――」ベッキーも男の顔をまじまじと見つめる。「ああ、確かに手配書で見た顔だな」
「んじゃ、持って帰ろう」嬉しそうにそう言うと、何の躊躇いもなくその首を刎ねた。
その後、首尾よく呑気に草を
馬上でリュックに収められた黄金の偶像を再確認し、にんまりとほくそ笑む。
これから先どんなクエストが待ち構えているのか、それを考えるだけでワクワクするベッキーなのであった。
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