トラップ&トラベラーズ

水守 鈴

第一章

第1話:

レイダース・トラップ①

 とある遺跡の奥深く。そこから連なる洞窟の中で、


「何でやり過ごさなかったのっ?」


「そうすると今度は出口を塞がれるんだよ!」


「潰されるよりはマシだよ!」


 口々にお互いを罵り合いながら、身長差が著しい凸凹コンビの少女が二人、必死の形相で全力疾走していた。


 それもその筈。その背後には轟音を轟かせながら巨大な丸石が迫っていたのだから。巻き込まれれば怪我じゃ済まないのは日を見るよりも明らかだった。


 二人が走る洞窟は真っ直ぐな一本道で、見える範囲に逃げ込めそうな扉や横道は見当たらない。それどころか鍾乳石が乱立しているせいで走り難い事この上なかった。


 その道は緩いながらも進行方向に向かって下り坂になっており、時が経つにつれて巨石の速度が加速度的に上がる仕組みになっている。二人の逃走を阻んでいる鍾乳石などものともせずに砕きながら、巨石はどんどんと速度を上げてきていた。


「何か居るよ!」


 薄暗がりの向こう、通気孔かはたまた明り取りか、そこから入り込む光の中に通路を塞ぐように立つ巨躯が見える。どうやらオーガのようだ。


 二人は申し合わせたように目配せしあうと、背の低い方はオーガの股下をスライディングの要領で潜り抜け、もう一人はオーガが横薙ぎに振るった棍棒を身軽に交わしつつ壁に向かって飛び上がると、三角飛びの要領でその右側を通り抜けていった。


 棍棒が石壁を叩く音に続き、オーガの怒りの咆哮が上がった。


――が、次の瞬間それらは背後で何かが派手に潰れる湿った音に掻き消された。否応なしに二人の足に拍車が掛かる。


 だが二人のスタミナも無限ではない。加速してくる巨石に対し、こちらは徐々に速度が落ちてきていた。もはやこれまでかと諦めかけたその時、緩いカーブを曲がった先に自然のものと思しき明かりが見えた。外に違いないと、焦ってもつれそうになる両足を目一杯動かす。


 逆光になっていてその向こうは伺いしれないが、だからといって立ち止まるわけにはいかない。二人は何ら躊躇うことなく頭から飛び込むような勢いで光の中へと突き進んだ。


 次の瞬間、背後で激しい衝突音を立てて巨石が完全に出口を塞いでいた。


 間一髪助かった。二人は同時にそう思ったが、この遺跡はそれほど甘くはなかった。


「――は?」


 確かにそこは遺跡の外だった。視界が左右に大きく開ける。


「――え?」


 しかし開けていたのは上下も同じだった。


 地面が無い。


 正確に言うと足下に大河があった。


 それも遥か眼下に。


 人間は単独で空を飛べない。それは自明の理だ。二人は悲鳴を長くたなびかせながら、なすすべなしに落下していったのだった。


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